[パラリンピアンの挑戦]
スプリンター高桑早生の進化

スポーツコミュニケーションズ

回転より歩幅に求めたワケ

 ロンドンから帰国後まもなく、高桑と高野コーチは反省会を行なったという。もちろん、リオに向けてのスタートを切るためだ。高野コーチは前もって100メートルと200メートルの予選、決勝の全4本のレースを細かく分析していた。高桑と同じレースを走った全選手の歩数をカウントし、各選手のストライドの長さを計算して高桑と比較してみたのだという。その結果、例えば100メートルの金メダリストとでは、最初の10メートルで約50~60センチも差ができていた。

「スタートの1歩目では、高桑の方が先に出ているんです。ところが、10メートルで50センチほど、優勝した選手が前にいる状態になっている。2人の地面に足をつくタイミングはほとんど変わりませんから、足の回転スピードに差はありません。ということは、単純に言えば歩幅の差を縮めれば金メダリストに追いつくということです」
 高野コーチの分析によれば、高桑と金メダリストとの歩幅差は、約20センチ。この距離を少しでも縮めていくことが、高桑に課せられた最重要課題とされた。

 とはいえ、20センチの差を縮めるのは容易ではないはずだ。2人の歩幅差に驚きを隠せないでいる私に、高野コーチはこう続けた。
「でも、足の回転だけを見れば、メダリストよりも高桑の方が少しだけ速いんですよ」
 では、20センチという歩幅の差を縮めるよりも、強みとなり得る足の回転スピードをさらに上げるトレーニングの方が優先順位としては先ではないのか。そんな疑問を高野コーチにぶつけると、次のように説明してくれた。

「確かにいずれはやらなければいけないと思っています。でも、今はその時期ではないかなと。実は回転スピードというのはトレーニングをすれば、意外にも簡単に速くなるものなんです。ですから、タイムを縮めるのに最も手っ取り早いのは、回転スピードを上げることなんです。やり方としては、1歩の歩幅を現在よりも短めにしてダッシュをするんです。これを繰り返すことによって、速い足の動きができるようになる。でも、それは同時にケガへのリスクも高くなるんです。なぜなら、走るという行為で最も筋肉に負荷がかかるのは、前足が空中から地面に接地した瞬間、そして後ろ足を地面から空中へと蹴り上げる瞬間なんです。回転スピードを上げるということは、その動きの切り替えしを速く、そして多くしなければいけないということ。それを特に今のような寒い時期にするというのは、ケガへのリスクが高くなってしまう。それよりも今は、ゆっくりでいいから大きな動きの感覚を身につけさせることが重要だと考えています」