NTTはどこへ行くのか
【第2章】 クラウドという経営環境の変化(1)
クラウド・コンピューティングってなに?

2011年、NTTグループに買収されたオプソース社のオフィス(筆者撮影)

第1章(4)はこちらをご覧ください。

 シリコンバレーには、3つのコンベンション会場があります。そのひとつ、サンタ・クララ・コンベンション・センターには、隣にテックマートという会議場ビルがあり、いくつかのベンチャー・ビジネスが入っています。クラウド・プロバイダーの「オプソース社」は、創業以来、その一階に本社を構えています。

 同社の最高経営責任者(CEO)を務めるトレブ・ライアン氏は、大企業の中堅技術部長といった落ち着いた雰囲気があり、シリコンバレー・ベンチャーの気取ったギークとはほど遠い風貌です。しかし、ライアン氏は同市場の黎明期にいち早くクラウド分野に参入し、積極的に活動してきたパイオニアなのです。

 第1章で述べたように、NTTグループは海外事業開拓のために、様々な企業を買収しています。パブリック・クラウドのパイオニアで、オーケストレーション技術に高い評価をもつオプソース社も、2011年6月30日にディメンション・データ社に買収され、NTTグループの1社になりました。

 いきなり「パブリック・クラウド」とか「オーケストレーション」などと書きましたが、多くの読者には、何のことやらおわかりにならないことでしょう。調度良い機会なので、ここで少しクラウド・コンピューティングの解説をしておきましょう。

企業情報システムはコストダウンで変わる

 米国でも、日本でもクラウド・コンピューティングは大きなブームになっていますが、その理由は従来にないコストカットと高い柔軟性にあります。その定義は様々ですが、基本的には「遠くのデータセンターにあるアプリケーションを様々な端末から活用するICTシステム」です。

 ただ、この説明ではインターネットでホームページを利用することと違いがわかりません。実際、昨今のソフトウェアは、ブラウザーを多用するので、ユーザーからはクラウドによる変化を感じることはないでしょう。しかし、バックエンドと呼ばれる部分---お芝居で言えば舞台裏に当たる部分では、ドラマチックな変化が起こっています。本連載は技術書ではないので、細かい説明を省きますが、その変化を「食生活」にたとえて解説してみましょう。

 1980年台から90年台まで、企業情報システムは「オンプレミス方式」という利用環境が主流でした。オフィスの片隅にサーバーと呼ばれる大きなコンピュータを置き、机の上に置いたパソコンをネットワークでつないで利用する方法です。

 これは食生活にたとえれば、家庭料理の世界と考えてください。キッチンで食事を作り、ダイニング・テーブルで食べる方法です。キッチンには冷蔵庫や調理用のボール、オーブンなどがそろっており、レシピに従って、料理を作ります。盛り付けられた料理はテーブルに運ばれて、家族でたべます。大雑把に冷蔵庫はストレージ(外部記憶装置)、ザルやボールはデータベース、オーブンはアプリケーション・サーバなどにあたり、レシピがアプリケーションといった感じでしょう。

 第1章でNTTによるディメンション・データ買収の話をしましたが、同社は、オンプレミス方式に強い会社です。顧客企業に高度なICT技術を持つ社員を派遣して、現場でシステムの構築保守改善を行います。つまり、料理人に当たる人を派遣するわけです。

 オンプレミス方式の課題は、各家庭(オフィス)に料理人を確保し、材料を少量づつ購入するのでコストが高くつくことです。たまにしか作らない複雑な料理のために専用の調理器具を置く無駄もでます。実際、1990年台末の米国では、オフィスに大量のサーバーが並び、アプリケーションの重複購入が増えて大きな問題となりました。

 こうした問題を解決するために登場したのが、データ・センターへの「ホスティング」と呼ばれる方式です。この方法は、オフィスにあったサーバーをデータ・センターと呼ばれる専門の建物に集約し、ユーザーは専用線やインターネットで利用します。データ・センターに設備をまとめることで、機器やソフトウェアの重複を減らし、無駄をなくすのです。

 これは食文化にたとえれば「出前」と考えてください。必要な料理をお店に頼むと、家まで持ってきてくれるサービスです。この場合、お店はデータ・センター、料理を運ぶ人はインターネットや専用線網です。これなら自宅のキッチンも必要なく、料理人を確保する必要もありません。こうしたコスト削減効果があるため、米国企業は今世紀に入ってオンプレミス方式からホスティング方式へと移ってゆきました。

 ちなみに、出前では料理を運ぶ人、つまり通信事業者が重要になります。料理が冷めないうちに素早く、しかも確実に運ばないといけません。また、途中で異物が混入しないように安全にも気を配る必要もあります。実は、このホスティング・サービスによって、通信業界とコンピュータ業界の融合が始まったのです。

 このように企業情報システムが大きく変わるのは、コストカットが主たる要因です。そして今、クラウド・コンピューティングは、より多くのコストダウンを可能にすると期待されています。

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