肥土伊知郎 第1回 「祖父の羽生蒸留所と孫の秩父蒸留所をつないだモルトウィスキーの物語」

島地 勝彦 プロフィール

 <店主後曰>

 いまや肥土伊知郎は、世界中のシングルモルト・ラバーにとって、輝ける星である。彼が造って売り出す、カードシリーズやリーフシリーズ、浮世絵シリーズは、発売と同時に即日完売する。いままでわたしは全部購入して飲んでみたが、全部美味い。独特の香りとコクが堪らない。メジャーではとても仕込めない、マイナー蒸留所独特の特徴をうまく出している。

 この対談から10日も経たないうちに、どうしてもイチローズ・モルトの蒸留所を見たくなり、わたしは、肥土伊知郎のいる秩父蒸留所を訪れた。

 秩父の山間に冬の弱い日差しの浴びて、その小さな蒸留所はひっそりとあった。モルト独特の甘い香りが鼻腔を気持ちよく愛撫してくれた。熱く静かに燃える男、肥土伊知郎がいつもの笑顔でわたしを迎えてくれた。

 「先日はサロン・ド・シマジ本店で美味しいカプチーノを、また珍しいシングルモルトをいろいろと飲ませていただき、有り難うございました。大変勉強になりました」

 「伊知郎さんが持参してくださったカスク・ストレングス23年は素晴らしい出来映えでした。58度には痺れました」

 「あれは羽生蒸留所の祖父らの遺産です」

 「ネスプレッソのカプチーノは瞬時にして出来る飲み物ですが、それとは対照的に、シングルモルトは時間のかかる飲み物ですね」

 「はい、最低でも3年はかかります」

 「この間たまたま、グレンファークラスの5代目オーナー兼会長のジョン・グラントさんがサロン・ド・シマジ本店に遊びにきまして、例の23年モノを飲んでもらったら、『おお! オリエント!』って感嘆していました。グレンファークラスの蒸留所も小さなところですから、何か通じるものがあるのかもしれません」

 「いやいや。グレンファークラスは小規模だけど、歴史が古く由緒ある蒸留所です」

 「オーナーのお土産にいただいたグレンファークラス40年熟成は、これまた格別でした。40年も寝かせておくと、半分は揮発してしまい、モルトは樽に半分しか残っていないそうです」

 「そうでしょうね。天使が毎日タダで飲んでいますから」

 「1年で約1.5%がエンジェルズ・シェアだと言っていました」

 「それくらいは天使の分け前でしょう」

〈次回につづく〉

 

肥土伊知郎(あくと・いちろう) ベンチャーウイスキー社・社長。1965年、埼玉県秩父市生まれ。実家は江戸時代創業の蔵元、肥土本家。東京農大醸造学科卒業後、サントリー勤務を経て、父が経営する東亜酒造に入社。35歳で社長に就任するも他社に譲渡。廃棄予定のウイスキー原酒を買い受け、ベンチャーウイスキー社を設立する。2007年11月、秩父蒸溜所が完成。2012年2月、自社で蒸留した最初のモルトウイスキー「秩父 ザ・ファースト」はジャパニーズウイスキー・オブ・ザ・イヤー(米国の専門誌主催)を受賞した。ホームページ: http://homepage3.nifty.com/venture-whisky/
島地勝彦 (しまじ・かつひこ) 1941年、東京都生まれる。青山学院大学卒業後、集英社に入社。『週刊プレイボーイ』『PLAYBOY』『Bart』の編集長を歴任。現在、コラムニストとして活躍。著書に『乗り移り人生相談』(講談社)、『知る悲しみ やっぱり男は死ぬまでロマンティックな愚か者』(講談社)など。Webで乗り移り人生相談Treatment & Grooming At Shimaji Salonを連載中。

島地勝彦=責任編集
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