橋上秀樹 WBC戦略コーチ
「選手の迷いを断つ。それが私の仕事です」

さあWBCだ! その1
フライデー プロフィール
「2冠は橋上コーチのアドバイスのおかげ。見逃す勇気を持てるようになった」と話す日本代表主将・阿部〔PHOTO〕今井隼人

 キューバと強化試合をしたときも、サンプルは日本に来る前に台湾で行った試合だけでしたから、ピッチャーの球威、球種の特徴などが主で、情報は多くありませんでした。それでも何人かのピッチャーは読み取れる傾向があり、使えるデータに作り上げました。『作り上げた』という言い方をしたのは、データを正確に伝えるなら、『このカウントであれば、これもあるし、これもあるし、これもある』となって、余計に迷わせてしまう。こちらの経験などからひとつにできなければ意味がないんです。そのためにはこちらが腹をくくらなければならない」

 ジャイアンツでは間違っていれば選手に頭を下げた。責められることも覚悟した。そんな橋上にとって初のWBC、重圧は並大抵ではない。

「原(辰徳・巨人)監督からは『いくらNPBでやっても経験できないくらいのプレッシャーのなかでの野球になる』と教えられました。ただ、『あの経験をしたことで、その後はたいがいのことには動じなくなった。WBCでの経験は橋上にとってすごい財産になるから』と送り出してもらいました。考えれば考えるほどプレッシャーがかかってしまうので、成功したときのことだけをイメージしようと思っています」

 ただデータを揃えるといっても、容易なことではない。映像や配球データなどのチェックは、シーズン中の場合、20~30分単位で休憩を挟みながら何回かに分けて行うなど、集中した状態で向き合う。いずれも細かい作業となるため、昨年の夏あたりから老眼が急速に進行したという。

「手に持った資料と目の距離が明らかに広がりましたよ。近いところが本当に見えなくなりました。少し前に古田(敦也)君に頼んで、老眼鏡を用意したほどです」

 それでも自らの仕事が選手の一助となり、チームの勝利につながることを知っている以上は力を尽くすのみ。詳しくは明かせないものの、侍の刃は着々と研ぎ澄まされている。

「強化試合での姿がキューバの実力なら本当に楽なんですけど、おそらく違うでしょう。ただ、調整が進んだとしても、この部分は本番でも出るなということがいくつかありました。本番直前の強化試合は手の内を隠してくるでしょうけど、それでもわかるところはわかります。

 動作解析にしてもNPBの球団ならどこも投球時や牽制時の数cm程度の違いは見逃しません。ですから日本人選手はそうしたスキを見せませんが、他の国はそういうクセが少し出やすいのかなという気がします。野球とベースボールの違いというか、根本的に野球に対する考え方が違いますからね」