NTTはどこへ行くのか
【第1章】 通信業界とは違う新世界へ(3)

買収に合意したディメンション社とNTT幹部の懇談風景。中央が三浦氏(当時社長)と、その右がオルド会長(写真提供NTT)

第1章(2)はこちらをご覧ください。

アジアの見知らぬ通信事業者

 2010年7月15日、NTT持株はディメンション・データ・ホールディングスに対して、友好的なTOB(公開株式買い付け)を発表しました。買い付けは順調に進み、同年9月には懸案だった米国の対米外国投資委員会(CFIUS)の買収承認も取り付け、12月13日に買収を完了しています。約2,900億円の買収完了にともない、同社はロンドンとヨハネスブルグの両証券取引所の上場を廃止して、NTTグループの一員となりました。

 1983年に南アフリカのヨハネスブルクで設立されたディメンションは、2011年末現在、従業員数が約1万4,000名、世界51ヵ国で営業をおこなう国際的なシステム・インテグレーターです。2011年度の売上は58億ドル。1ドル80円で換算すると、4,680億円となります。ただ、米国市場では約2,000名の社員を持つ中堅で、正直な話、NTTが公開買い付けをするまで、私は同社についてよく知りませんでした。その後、取材などを通じて調べてみると、非常に興味深い会社です。

 システム・インテグレーターとは、企業に代わって情報システムの構築と維持管理をおこなう事業者のことです。米国では、IBMグローバル・サービシーズやヒューレット・パッカードなどの大手が活躍しています。ただ、ディメンションは、こうした米国系の大手システム・インテグレーターとは、経営形態が大きく違います。

 たとえば、IBMはITの専門知識をもったスタッフを抱えるだけでなく、自社でデータセンターやコール・センター(顧客管理センター)、リース回線などの設備を持ち、しかも、ソフトウェアやハードウェア事業部もあって、ほとんどの仕事はIBM社内でまかなえます。もちろん、ソフトウェアなどは、それぞれの用途に応じて外部から調達しますが、企業システムの中核をなすアプリケーション・サーバーやデータベースなどは、自社の製品で固めています。

 また、中堅の通信会社センチュリー・リンクに最近買収されたサビス(SAVVIS)は、データセンターだけでなく、自社で通信幹線網を持ち、サーバーから通信サービスまでを提供しています。こうして社内製品やサービスを含めることで、米系システム・インテグレーターは高い収益をあげることを好みます。

 一方、ディメンションは、世界規模で事業をしていながら、データセンターや通信網など設備らしいものは一切持っていません。2010年10月の取材で、同社のシーン・コノリー氏(ゼネラルマネージャー兼ネットワークインテグレーション副社長)は「我々の資産は、従業員そのものです。高度な知識をもって、顧客に適切な企業情報システムの提案をできることが、私たちの強みなのです」と繰り返し述べています。つまり、同社はオンプレミスを重視するシステム・インテグレーターなのです。

 米国では、今世紀に入ってデータセンターを軸とするコスト・カット活動が一般化しました。それまでは、企業が入っている本社ビルの一角にサーバーやストーレッジなどをまとめたITルームを置き、従業員のパソコンにつないでいました。こうしたオフィスの中にITシステムを設置し、運用するやり方を「オンプレミス(on-premises)方式」と呼びます。

 この方式は、サーバーやアプリケーションの重複が増えること、社内にITシステムの専門家を雇わなければならないことなどから維持コストが高くなります。そこでITシステムをデータセンターに集約し、専用の通信回線を使って利用する「ホスティング・サービス方式」が米国では好まれるようになりました。

 ただ、世界的に見ると、データセンターや通信サービスのコストが高い国々はまだまだ多く、全体としてはオンプレミス方式が多数を占めています。ディメンションは、そうした企業の現場にエンジニアを派遣し、サービスを提供してきました。ですから、設備を持つ必要がなかったとも言えるでしょう。

 ところが、米国では2007年からクラウド・コンピューティング方式が登場しました。クラウドを使えば、ホスティング・サービスよりも更にコストを下げることができるため、徐々に普及が進んでいます。米国のシステム・インテグレーターは雪崩を打って、クラウドへと進んでいます。

 オンプレミス方式で堅実なビジネスを続けているディメンションとしても、長期的にはクラウドへと進まなければ、顧客に安くて良いサービスを提供できず成長を継続できません。とはいえ、急にクラウド・データセンターを建設したり、通信網を整備したりすることは、オンプレミスに事業を集中させていた同社にとって、大きな負担となります。そんなとき、ディメンションの前に現れたのが、アジアの見知らぬ通信会社「NTT」だったのです。

三浦氏は中期経営計画でNTTの海外展開とソリューション事業強化という大転換を狙った(写真提供NTT)
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