週現スペシャルこれぞ、究極の格差社会 使える理系使えない理系【PartI】「理系は就職に有利」で選んだ人間の悲劇——文系と違い、ごまかしがききません

週刊現代 プロフィール

「嬉しかったですね。いままでの努力がすべて報われたと思いました」

 しかし、それは大間違いだった。最初に配属されたチームが手がけていたのはファミレスなどで見かけるセルフで数種類のドリンクを出すマシンの小型化。だが、先輩たちがアイデアを出し合うのを、彼女は黙って見ているしかない。

「自分で思いつくことなんて何もない。大学では先生が課題を設定して方法を教えてくれましたけど、理系の先輩たちは、私が『自分で一から考えることが苦痛だ』なんて想像もできないみたいで・・・・・・」

 これが文系の学生だったなら、専門科目—たとえばフランス文学や経営学が苦手でも、就職した会社で困ることなど、まずないだろう。

 だが、理系の就職では、本当に理系の勉強が好きでなければ、ごまかしがきかない。

 元ソニーの技術者で、同社退社後JVC・ケンウッド・ホールディングスの執行役員常務も務めた前田悟氏は、理系就職の代表格である技術者の仕事の醍醐味についてこう語る。

「優秀な技術者になれるのは、新しいものを生み出して、みんなを喜ばせたいと強く思う人。ダメな人はどこかで無理だと思って諦めるけど、優秀な人間は『実現したい』という思いが強くて諦めきれない。

 僕なんて、仕事の合間にいろんなものを作って遊んでいましたよ。たとえばお湯が湯船に一定の水位まで溜まると音で知らせる『お風呂ブザー』を作って、家族や友達にあげたらずいぶんと喜ばれました。

 昔はそれを上司が認めてくれた。認めたというより上司も喜んだね。こんなの作ってみました、と報告すると『よくやった』『いいアイデア、持ってるねぇ』と褒められたもんですよ」

 そうして新しい発想での試行錯誤を楽しみながら繰り返した結果、前田氏は世界初の無線テレビ『エアボード』を開発。その発想はのちに世界を席巻する、アップル社のタブレット型端末iPadに酷似していた。もし'90年代後半にソニーが先行してタブレット型端末に傾注していれば、世界の市場を牽引したのはソニーだったかもしれない。