光が強ければ強いほど、影は濃くなるものだ。首相・安倍晋三が初の日米首脳会談で環太平洋連携協定(TPP)交渉参加についてオバマ米大統領から譲歩を引き出すなど快調な政権運営を進めているのに対し、民主党の闇は深まるばかりだ。
とりわけ、落選の憂き目を見た民主党前議員は悲惨だ。月50万円の活動費が党から支給されているとはいえ、これも今年8月までの期間限定。昨年暮れの衆院選まで政権の中枢部にいた前議員はこう言って嘆いた。
「私だって政権交代して良かったと思っているぐらいですから、国民はもっとそう思っているでしょう。民主党は10年ぐらいの計画を立てて、再建の道筋を立てた方が良いのではないか」
10年計画を口にせざるを得ないほど、民主党は先が見えないのだ。
野党が存在感を示す場はなんといっても国会だ。民主党はそこで失敗を重ねている。その象徴が公正取引委員会委員長に元財務事務次官・杉本和行を起用する人事案件だった。
政府がこの人事を提示しようとすると、民主党参院議員会長・輿石東は読売新聞が事前報道したことを理由に「(人事案提示は)受けない。多くを語る必要はない」(2月7日の記者会見)と突っぱねた。輿石の意向に従い、民主党議員は衆院議院運営委員会を途中退席し、人事案提示を拒否した。
だが、この人事は民主党政権下の昨秋に決まっていたことだ。民主党幹事長代行・安住淳が自民党幹事長代行・菅義偉(現官房長官)に杉本起用を打診、菅は自民党内調整を請け負った。ところが、その前に提出された原子力規制委員長人事の国会承認が採決されると造反者が続出しかねない、という民主党内の事情から店晒しにされていた。人事案件は提出順に処理されるため、公取委員長人事はこのあおりを受けた。
つまり、安倍政権は民主党から頼まれた人事を実行しただけだ。しかも、政府筋によると「輿石さんもこの人事案を了承していた。読売が報道した後に、輿石さんと接触したらそれでもOKを出していた。輿石さんがなぜ変わったのか、分からない」という。
国会対策の混乱の原因は輿石にある。その輿石の足下の参院民主党では、党大会直前の22日に植松恵美子(香川選挙区)と川崎稔(佐賀選挙区)の2人が離党届を提出。岩本司(福岡選挙区)は今年7月の参院選の公募に応じなかった。
彼らの心理にあるのは「民主党という看板では選挙を戦えない」という不安だ。昨年暮れの衆院選結果などを見ると、目標とする改選議席46の維持は難しく、党幹部の間では「10議席台にとどまる」とすらささやかれている。このままの状況が続くなら、さらなる離党者を招きかねない。