「江戸の小判ゲーム」著:山室恭子
チーム定信で働きたい!

 まこと、びっくりですな。気づいてみれば大迷走。当初の目標であった物価値下げも、そのための布石に据えた家賃値下げも、狂いに狂った目算を補正する途上でポイポイ捨て去られて、最初は付け足しでしかなかった助け合いファンド設立がプロジェクトの目玉となり、そいつがはからずも大当たりとなった次第でございます。

 失敗したから成功したとも申せましょうか。予定外の方向にあれよあれよと転がっていって、でも世のため人のためという志さえ揺るがなければ、いつか必ず花が咲く。そこがこの仕事の醍醐味、たまりませんな。

 このプロジェクト、勘定方と町方の御奉行様が四名、関わった官吏たちは一〇〇名を超えましょうか。チーム一丸となって邁進した、まさに寛政の御代を代表する大プロジェクトでございました。

 そうそう、ここだけの話、リーダーの定信公は、いまだ成長途上でございます。この一年前の棄捐令(きえんれい)プロジェクトのときには、札差(ふださし)たちの抵抗を御しかねて、「このままでは武家に金を貸してくれる札差がひとりもいなくなってしまうぞ、どうしよう」と奉行衆におろおろ泣きついたり、意外とヤワな一面もお持ちで、そんな若いリーダーをみなで守り立てるのも、また心愉しいものでございます。

 職業は公務員、世の中の不具合を調整する役回り。年に三度の固定給、定期昇給なし残業手当なし、でも最高にクリエイティブ! この仕事に私どもが託した熱い志は子々孫々、一〇〇年経っても二〇〇年経っても、脈々とこの国に受け継がれておりましょうな、きっと。

(やまむろ・きょうこ 東京工業大学大学院教授)

 
◆ 内容紹介
松平定信と経済官僚たちの所得再分配のためのプロジェクト!
幕府も武家も商人もWin-Winの関係だった!? 借金棒引き、貨幣改鋳に込められた真の狙い? 支配―被支配という旧来の歴史認識ではわからない江戸時代の実像に迫る興奮の一冊。
 
山室恭子(やまむろ・きょうこ)
1956年東京都生まれ。東京大学文学部卒業、同大学大学院人文科学研究科博士課程中退。文学博士。現在、東京工業大学大学院社会理工学研究科教授。専攻は日本史。主な著書に、『中世のなかに生まれた近世』(吉川弘文館、サントリー学芸賞受賞)、『黄金太閤』(中公新書)、『群雄創世紀』『歴史小説の懐』(以上、朝日新聞社)、『黄門さまと犬公方』(文春新書)がある。

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