先輩たちの背中
面白いのは、よく観察していると、こっちが勉強になるようなことをしている選手もたまにいるわけです。
先ほど「藤浪はマイペース」と言いましたが、中村なんかは輪をかけて「自分」を強く持っている選手でした。頑固で、正直なところ、一番難しかった。
いつもニコニコしているようで、ものすごく芯が強い。私が何かバッティングについて「こうしよう」と提案しても、「ハイ」と返事しながら、絶対取り入れない。でも決していい加減ではないんです。
ウチの練習では、フリーバッティングを3ヵ所で行うのですが、中村は必ず真ん中の打席から始めるんです。真ん中は、カーブを投げるように設定したマシン。そこでまず、球場で言うとセンターのバックスクリーンに当たる位置に立っているポール付近に、ホームラン性の当たりを3本打ってから、ピッチャーが手投げしてくれる打席に移る。
理由を聞くと、「ボールをバットに乗せる感覚を確認してから(対人の打席に)入りたいんです」と平然と言う。
そんな高校生いないですよ。試合前も、みんな室内(練習場)で打つんですが、中村だけは打たない。鏡の前でただ黙々と素振りしているんです。
「今日はスイングの方がいいと思うので」
と。サボっているわけでなく、自分でこっちがいいと判断している。それで試合で確かに打つんですよね。
こうして思い出しても、彼らには当然、似ているところもあれば、ぜんぜん違うところもたくさんある。高校生は面白いですよね。
野球というのは、高校生で終わりじゃない。小中学校で揉まれてきても、高校生では、まだ野球の「や」くらいなんでね。あと「き」「ゅ」「う」とある。だからウチで野球をした選手には、全員プロでとはいかなくても、卒業後も大学や社会人などで野球を続けてほしいんです。
続けるためには、高校時代は自分で考える能力を鍛えなくてはなりません。藤浪は、その能力が特に長けていたんですよ。
西岡の時は、一つ上に中村がいて、中田は二つ上の平田良介を見て、刺激を受けた。そう考えると、藤浪は、先輩のいいところをうまく合わせたような選手なのかもしれません。
みんな後輩想いですしね。西岡は、毎年中田を誘って、一緒に自主トレをします。ウチにもたまに来てくれて、現役の部員たちに刺激をくれる。中田は中田で、夏の優勝後には、チーム全員に記念のTシャツを贈ってくれました。