精神科医が説く「子育ての『常識』のウソ」

『反教育論──猿の思考から超猿の思考へ』著者・泉谷閑示インタビュー

──親離れならぬ、子離れができない親も多い。

泉谷 これも本書で書きましたが、最近「マザコン」という言葉が聞かれなくなったのは、マザコンがなくなったからじゃないんです。マザコンが当たり前のことになってしまったからです。

──仲の良い親子がいいわけでもないと。

泉谷 極論かもしれませんが、「仲の良い親子は不自然だ」ということに気付くべきなんです。本来、親と子は別の人格と尊厳をもった存在なんです。少なくとも夫婦はお互いがお互いを選んで一緒になりますが、親子は互いに選択して親子になったわけではありません。もちろん肉体的形質、精神的資質は遺伝しますが、感性や価値観、生き方などは親子でもまったく別のものなんです。相性が良いという保証はどこにもない。

 だからこそ、親が自分の欲望で、「良かれと思って」子供たちの人生を曲げてはいけないのです。

生きる意味を考える

──本書では、いまの教育・しつけの問題を指摘しながら、ラストのほうでは、真の人間らしさとは、人間の思考とはといった根本的なところに触れられていますよね。

泉谷 現代人は、生きる意味、学ぶ意味、働く意味、結婚する意味といった基本的な問いをどれもスルーしてしまって、どうすれば効率よく学べるか、いかに楽に儲けられるかといったことだけを考えるようになってしまった。私はそれが、人間が生き物らしさを失ってきた根本原因ではないかと考えています。

──答えのない問いを問わない社会。

泉谷 そもそも、答えのない問いを問うことはムダ、という風潮はおかしい。「私はなぜ生きているのか」「私とは何か」、こういった問いは効率的でもないし、合理的でもない。答えが出ることすら、ないかもしれない。でもそうした問いを立ててみることは、人間が生きていくうえでも非常に重要なことです。

 ムダのない効率的なことだけで、人間は生きられるものじゃありません。実際に、ある日突然「自分は何をしたらいいかわからない」「なんのために生きているかわからない」といってエネルギーが切れ、立ち止まってしまう人が大量に生産されているんです。

 私は、生きる本質とは、人生を「味わう」とか、「経験する」とか、そういったことにあるのではないかと思っています。「味わう」といっても、成功することだけが味わうことじゃない。むしろ失敗することの方が、より深く人生を味わい、豊かな経験になることだってある。現代は、いつの間にか失敗を恐れる人だらけになってしまいました。

 人生は、ゲームの攻略本で済むような薄っぺらいものではありません。

 人間って、そんなつまらないものじゃないんです。むしろ歳を重ねれば重ねるほどおもしろくなってくるものなんです。私はいま50歳になりましたが、どんどんおもしろくなっていますよ。

◎現代新書 2月の新刊◎ 

『おどろきの中国』 橋爪 大三郎+大澤 真幸+宮台 真司

あの国を動かす原理は何か? どう付き合っていけばよいのか? 一気読み必至の大鼎談! 巨大な文明の謎とこれからを考える。

 『江戸の小判ゲーム』 山室 恭子

幕府も武家も商人もみんなWin-Winの関係だった!?  松平定信と経済官僚たちのクリエイティブな経済政策!?  貨幣改鋳に込められた幕府の真の狙い!?  江戸時代の見方が変わる興奮の一冊!

『〈生命〉とは何だろうか』 岩崎 秀雄

「細胞をつくる」最先端生物学の研究者であり、同時に、バイオアーティストとしても活躍する著者による「いのち」の本質についてのスリリングな考察!

 『韓国のグローバル人材育成力 超競争社会の真実』 岩渕 秀樹

サムスン、LG、現代……。世界市場で躍進を続ける韓国企業の背景には豊富な高度人材がいた。小学生から大学院生まで、日本をはるかに凌駕する超学歴社会の功罪をさまざまな事例から検証する。