米国の労働者の間で、「ロボットやAI(人工知能)に職を奪われる」という懸念がかつてなく高まっている。
① "Recession, tech kill middle-class jobs" AP, Jan 23, 2013
② "Can smart machines do your job?" AP, Jan 25, 2013
今回、特に強い危機感を抱いているのは、中間所得層のホワイト・カラーだ。上記一本目のAP記事によれば、2008年のリーマン・ショック以降、米国では約750万人の雇用が失われたが、その半数が年収3万8,000~6万8,000ドルの中間所得層だ。また同じ時期に欧州17ヵ国では760万人の中間所得層が職を失ったという。
米国ではダウ工業平均株価が史上最高値に迫るなど、経済は明らかに回復している。しかし肝心の雇用が、それについていかない。いわゆる「雇用なき経済回復(Jobless Recovery)」の状態にある。
同じ記者たちが書いた二本目のAP記事によれば、かつて、これとよく似た状況は1991年と2001年の2回見られたという。しかし、いずれの場合も景気が回復してから3年の間に、不景気で失われた雇用は全部取り戻された。つまり実際は「雇用なき経済回復」ではなく、「雇用が遅れてついてきた経済回復」だった。
ところが今回は違うという。米国政府が「リーマン・ショックによる不景気を脱した」と公式に宣言してから42ヵ月経っても、失われた750万人の雇用のうち、47%に当たる350万人の雇用しか取り戻せていない。欧州でも、いまだに350万人分の雇用が失われたままだ。これらの職はもう人間の労働者には戻ってこない。彼らの仕事は、工場やオフィスに導入された新型ロボットやAIソフトが奪ってしまった。そう、これらの記事では見ている。
それは実はリーマン・ショック以前から既に始まっていたという。米労働省の調べでは、2000年~2010年までの間に110万人の秘書が職を失った。同じ期間に、電話オペレーターの64%、ワープロやタイプ打ちの仕事の63%、旅行エージェントの46%、そして簿記係の26%が職を失ったという。
要するに、この種の「事務的で定型的なオフィス・ワーク」というものが、今、最も危険にさらされている職種なのだ。これらは今後、高度なロボットや業務用ソフトなど、新種のIT製品にほぼ取って代わられると見られている。