長谷川幸洋著 『政府はこうして国民を騙す』
~政府は平気で嘘をつく~

1月18日発売の最新刊より第2章導入部を抜粋

黒字転換のカラクリ

 実は、このシナリオは肝心かなめの賠償費用を一切、盛り込んでいない。なぜなら当面、賠償支援機構が賠償費用をぜんぶ立て替え払いしてくれるからだ。いくらかかろうと機構が払ってくれるので、収支シミュレーションで計算する必要がない。それには、次のような事情がある。

 原子力損害賠償支援機構法によれば、機構が政府から受けた交付国債を現金化して東電にカネを渡す。東電は後で「特別負担金」として機構に長期で分割返済する仕組みである。では、いつから特別負担金を払うのか。それが先の事業計画によれば「2010年代半ば以降」なのだ。

 つまり2010年代半ば以降に国際展開や新ビジネスを手がける。社債市場にも復帰する。それから借金返済を始めるというのだ。それと同時に機構が保有する1兆円株式も東電自身が買い戻し、市場に売却する計画を立てた。それが実現できれば、1兆円出資もあるいはムダにならないかもしれない。

 だがこれは、まったくの絵空事である。

 当面は機構が肩代わりするとしても、東電は少なくとも数兆円に上る賠償負担を抱えている。加えて除染もある。除染はどうかといえば、放射能物質汚染対処特別措置法に基づいて、こちらも当面は国と地方が分担して除染事業を実施するので、東電は費用を心配をする必要がない。だが、これはあくまで一時しのぎである。除染費用は後で東電が国に支払うのだ。先の措置法にそう書いてある。

 それに廃炉がある。当座の応急措置分は先のシナリオに計上しているが、最終的な廃炉費用総額はわからず、計算から除いている。ようするに「2010年代半ば以降には社債市場に復帰して、2022年3月期まで毎年1,000億円前後の利益を出す」というシナリオは、賠償も除染も廃炉もぜんぶ除き、借金返済を棚上げしたうえでの話なのである。

 それで1,000億円程度の利益である。そんな額で「特別負担金」は支払えるのか。賠償と除染、廃炉にかかる費用はいくらか。日本経済研究センターの試算によれば、少なくとも20兆円、最大で250兆円かかるという(「原発の行方で異なる4つのシナリオ」2012年3月、「原発の発電コスト、20年度には事故前の3倍に」2011年7月)。