親会社の業績に左右されない経営を! サッカークラブが地域の公共財となるために考えるべきことは何か

日本経済は、アベノミクスで立ち直るのでしょうか。株価は上昇し、円高は是正されていますが、「三本の矢」のひとつの公共事業は、一時的な栄養剤のようなものだと聞きます。金融緩和にしても副作用はあり、成長戦略で新たな産業を生み出さないと、本当の意味で経済は立て直せない、とも。日本経済が活力を取り戻すには、そう簡単ではないのでしょう。
海の向こうからも、国内経済の悪化を伝えるニュースは届いています。サッカーに携わっているだけに、スペインやポルトガルといった国名を耳にすると、敏感に反応してしまいます。
ヨーロッパのプロサッカーにおいても、台所事情に苦しんでいるクラブはあります。しかしながら、潰れてしまうクラブはありません。スペインにもバルセロナのように、景気の悪化をまったく感じさせないクラブもあります。
その理由として考えられるのが、クラブの成り立ちでしょう。
サッカークラブが地域の公共財となっているヨーロッパでは、地元企業に寄り掛かるような経営はしていません。クラブを支えているのは、企業ではなく「人」です。親会社の業績に左右されないからこそ、経営が安定化しているのでしょう。
地域貢献、地域密着という言葉の意味を考える
日本にも、そんなクラブがあります。静岡県沼津市にある「アスルクラロ沼津」です。
Jリーグ開幕前の1990年に設立されたこのクラブは、地域コミュニティの中核となり、スポーツを通して明るく豊かな街づくりに寄与することを目的としています。ヨーロッパのような総合型のスポーツクラブを標榜しており、新体操やテニス、スキーなどのスポーツも行なわれています。このところ女性にブームの登山やキャンプも、活動に含まれています。富士山を間近にのぞみ、駿河湾にも近い沼津の地域性が生かされているのでしょう。
サッカーは育成型のクラブです。6歳から15歳までおよそ2000人の子どもたちが、年齢ごとに分かれてスクールで学んでいます。トップチームは大学生と社会人で構成されています。
Jリーグはこのほど、J1、J2に加えてJ3を創設したい意向を明らかにしました。話し合いが予定どおりに進めば、2014年からJリーグは3部制となります。
今回触れた「アスルクラロ」のトップチームは、東海社会人リーグ1部に所属しています。2013年シーズンの成績次第では、JFLへ昇格できます。その先にはもちろん、J3、J2といったステージが見えてくるでしょう。
将来有望な子どもたちは、高校生年代からJリーグ・ジュビロ磐田の下部組織へ進んだりもします。年代別の日本代表に選手を送り込んだり、Jリーガーを輩出するといった実績も残しています。
子どもたちは送迎バスで練習に通っているのですが、ハンドルを握るのは定年退職した元プロの運転手さんです。運転技術は確かですし、ささやかですが雇用の創出にもなっています。
また、運転手さんと子どもたちが顔なじみになることで、細かな目配せができることも見逃せません。
練習や試合を終えて、元気いっぱいにバスへ戻ってきたら、「今日はいいプレーができたのかな?」と声をかける。いつもに比べて元気のない子どもがいたら、「どうしたの? 何かあったの?」と聞いてみる。両親や友だちに言えない悩みも、運転手さんになら話せる、という子どももいるそうです。20世紀にあった近所付き合いのようなものが、送迎バスの周りで行なわれているのです。
部活動における体罰が、テレビや新聞でさかんに報道されています。子どもが被害者となった犯罪も起きています。
サッカーにできることは、ないのでしょうか? できることは少ないかもしれないけれど、無関心でいいはずはありません。
J3が創設されれば、「Jリーグ」の看板を掲げるクラブがさらに増えることになります。サッカークラブが地元にとって欠かせないものになるためにも、地域貢献、地域密着という言葉の意味を、改めて考えるべきだと感じています。