戸川貴詞×安藤美冬 【第2回】
『NYLON』ブランドはどうやって生まれたか 「部数だけではなく、雑誌を中心にコミュニティを作ることを考えました」

[左]戸川貴詞さん(『NYLON JAPAN』編集長/カエルム代表取締役社長)、[右]安藤美冬さん(spree代表取締役/フリーランス)

【第1回】はこちらをご覧ください。

さまざまなビジネスの軸となるブランドが誕生した

安藤: 戸川さんは起業を考えたとき、一度は日本の出版業界の現状に幻滅されたわけですけど、それこそ新規のインディー系出版社が勝とうとすると、日本ではすごく厳しい戦いになりますよね。なのに、どうしてわざわざ出版社を起業し、雑誌で勝負をかけようと思われたんですか?

戸川: 実は僕、出版社を作ろうという感覚はなかったんです。むしろ一つのブランド、多角的なマルチメディアのブランドを作りたいと考えていました。もちろん雑誌や本が好き、という根本的に揺るがない気持ちはずっとありましたけれども。

安藤: そこが発想の新しさだったんですね。

戸川: もちろん、『NYLON』も『DAZED & CONFUSED』も雑誌なんですけど、僕が起業したころには、すでにインターネットが出てきていたでしょう。だから、単なる雑誌の編集よりも、ブランドを作り、それを使ってビジネスをするということの方が、僕にはイメージしやすかったんです。雑誌が単体で何部売れて、いくら広告が入って・・・ということだけを計算すると、かなりリスキーで難しい試みになりますからね。

 最初は『NYLON』という雑誌でスタートして、やがてその『NYLON』をブランド化させ、そうすることによって、さまざまなビジネス展開ができるだろう――。漠然とですが、そんなプランがありました。

安藤: 当時、『NYLON』や『DAZED & CONFUSED』のようなインディーズ系で世界的なブランドの雑誌が日本で出版されていた事例はあったんですか?

戸川: 僕の記憶では、ありません。あえて言うなら、僕が会社を始める頃にはすでになくなっていましたが、イギリスの『i-D』、アメリカの『WIRED』(現在はコンデナストに買収されていて、一昨年、日本版がコンデナストジャパンより復刊)が近いですかね。

 でも『i-D』は、現在はヨーロッパの大手出版社の雑誌で、日本版は創刊から1年で休刊、サブカルチャーの枠を超えたテクノロジーメディア雑誌『WIRED』日本版も約4年で休刊しました。

安藤: 『NYLON』や『DAZED』が扱うようなファッションも、当時、日本で別に流行っていたわけじゃないですよね?

戸川: あんまり流行っていませんでした。

安藤: じゃあ、戸川さんがまさに開拓していったわけですね。カルチャーを輸入して、そこからブランドを作り、育てていった。

戸川: もともと『NYLON』や『DAZED』が扱うファッションやカルチャーの感覚が好きな人たちも、ごく少数ですが、日本にいることはいたんですよ。洋書レベルというか、洋書の『NYLON』や『DAZED』が日本で売れていた部数は500部とか1000部くらいだったと思います。ただ、そういうコアな人たちは確実に存在した。

 最初は日本版も、そういう、学校で言えばクラスの中に1人か2人くらいいる感度の高い人たちに響けばいいと思ったんです。インフルエンサーとしてね。そこから広げていくことを考えた。そういう意味で、今もよくやってますけど、当時はクラブイベントをやたらと仕掛けていました。

安藤: なぜクラブイベントを?

戸川: 『NYLON』のファッションやカルチャーが好きな人たちは、たぶんクラブのようなところに集まるだろう、と単純に思ったので。当時の僕らには、『NYLON』を宣伝するお金なんか1円もありませんでした。電車の車内吊り広告なんて、逆立ちしても出せるわけがない。

 そこで、クラブイベントをやろうと思ったんです。クラブと共同でイベントを企画すれば、お金もかかりませんからね。そういうイベントは本当にかなり仕掛けましたよ。音楽はエイベックスさんとかいろいろなところと組んで・・・。

 あとは、雑誌とポスターをたくさん担いで、都内のおしゃれな人たちが集まっているカフェやレストランを自転車でかなり回りました。毎月お願いして、雑誌を置いてもらったり、ポスターを貼ってもらったり。それが宣伝になって、バズ効果も起き、少しずつ『NYLON』の「色」ができて、浸透していったんです。

安藤: まさにブランドの誕生ですね。

戸川: 僕にとって、雑誌における最初のブランディングだったと思うんですけど、そうやって雑誌を中心としたコミュニティができていく感覚が生まれれば、さらにその先のビジネスも見えてきます。

 たとえば、今はいろいろやってますけど、ブランドのカタログやヴィジュアルをプロデュースするとか、服をプロデュースして売るとか、音楽をプロデュースして売るとか、カフェをプロデュースして運営するとか、ブランドを軸にいろんなビジネスが可能になるわけです。

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