安倍内閣の経済政策、アベノミクスのロケットスタートで、公共事業の大盤振る舞いを期待する建設業界は既にバブル状態だ。これでもか、とばかりに繰り広げられる景気の良い話の中で、違和感を覚えるのは、何故これほどの大盤振る舞いに誰もブレーキをかけないのかということだ。
官僚たちの悪乗り振りは、目に余る。若手から幹部まで、「もうタマがない」と嬉しい悲鳴を上げながら、「要求しなければ損」とばかり、「何でもあり」の数字の積み上げが行われている。役所の中では唯一のブレーキ役になるはずの財務省もほとんど無抵抗。もちろん、その思惑は、夏までの景気情勢次第では消費増税の延期という話が出てくるかもしれないので、それを回避するためには仕方ないということだ。
もっと気になるのは、マスコミの姿勢だ。大手新聞各紙は、一応ばら撒き批判や官製ファンドなどによる官僚主導経済批判を展開しているが、普段に比べて極めて控えめだ。景気は「気」だということで、せっかくいい雰囲気が出てきたのだからあまり水をさすのは憚られるという心理なのかと思ったが、それだけではなさそうだ。
今、消費税増税時の低所得者対策について与党内で議論が行われている。公明党は昨年の総選挙の際に主張したとおり、'14年4月に5%から8%へ引き上げる時から生活必需品に対する軽減税率導入を要求している。自民党側は、導入の準備期間が必要だとか、品目の選定が難しいなどの理由を挙げて、'15年10月に8%から10%へ再引き上げする際に導入すべきだとしている。両者の間の調整が下旬までに行われるのだが、どうも、軽減税率導入は既定の事実となってしまった感がある。
軽減税率が導入されるとなれば、特定の品目を対象にするかどうかをめぐり、官僚と族議員の「活躍」の舞台ができる。売り上げに直結する話だから、その利権は極めて大きなものになるだろう。各商品・サービスを所管する省庁はもちろん、財務省にとっても大きな権限となる。
となれば、マスコミが、様々な角度で、この問題に批判的な議論を行うのではないかと思われるのだが、ここでも不思議とおとなしいのである。テレビの情報番組などでは、面白おかしく批判的に取り上げられたこともあるが、ここへ来て、新聞は軽減税率批判を完全にストップしている。
思い起こせば、全国紙は一部を除き、消費税増税に賛成していた。その頃から、財務省と新聞社との間では、増税に賛成すれば、新聞に軽減税率を適用するという密約があったという説がある。某全国紙で、お目付け役の監査役に財務省の元幹部を受け入れて以来、その説はますます信憑性を帯びることになった。
今回の軽減税率の報道では、面白いことに、どんなに短い記事でも、対象品目として、米、味噌、しょうゆ3品目と並んで必ず「新聞」が例示されている。米・味噌・しょうゆをそれほど重視するのも随分時代錯誤の感を否めないが、いまや、新聞を読まない層がどんどん拡大しているにもかかわらず、これを米、味噌、しょうゆと同列に並べるあたりの図々しさには唖然としてしまう。まるで、新聞の特別扱いは決まりだとでもいうような態度だ。
新聞社としては、今、安倍政権にあからさまにたてつくと、ただでさえ売れなくなって困っている新聞に消費増税がまるごとかかってくる事態になりかねない。軽減税率確保までは、激しい政権批判は避けようという意識が働いているのではないか。うがち過ぎの見方だろうか。
『週刊現代』2013年2月2日号より