では、日本の金融緩和は他国といかに違うものなのか。ここでは、三菱UFJリサーチ&コンサルティング主任研究員の片岡剛士氏の解説を参考にしながら、最近の日米の金融緩和を比較してみよう。
二〇一二年九月のFRBの会合では、失業率の改善を促進しようと、住宅ローン担保証券(MBS)を月間四〇〇億ドル増額することが決まった。これがQE3として知られているものだ。
日米で違うのは、まず金額の差である。四〇〇億ドルは三兆円ほど。日米の経済規模を考慮して日本のケースに当てはめると、毎月一・五兆円ほどの資産買い上げをすることになる。一方、日銀の買い上げは、二〇一二年の額をならすと、毎月八三〇〇億円に過ぎない。
さらに問題なのは、FRBは毎月の買い上げを宣言しているのに、日銀は一年間で買い上げできる資産の規模を示しているに過ぎないことだ。金融政策はすぐに発動でき、直ちに市場に行きわたるという即効性が特徴である。なのに、それを無視して、来年のことを語ろうとする作戦のようだ。
おそらく、岩田規久男氏のいう「デフレの番人」に徹するため時間を稼ごうということなのだろう。バレンタインデーには、インフレの「目途」という期待を与えて株や円に好影響を与えた日銀が、その約束を果たす実際上の金融政策を、図表1が示すように、量ではほとんど示していない。
このことからも、インフレ目標の存在がなぜ重要なのかがわかる。ニュージーランドのように、インフレ目標に達しないと中央銀行総裁が責任をとらねばならない国もある。そうでなくても、インフレ「目標」が存在すれば、総裁は国会その他で説明責任を負い、激しい質問に答えなければならない。そう説明すれば、読者のみなさんも、なぜ日銀が「目途」というあいまいな言葉を守るために奮闘しているかが分かるであろう。
私は二〇一二年二月一四日の日銀決定を見て、日銀が改心した可能性があると思っていた。