一九九八年に新日本銀行法が施行されて以降、次章でも示すように、日本経済は世界各国のなかでほとんど最悪といっていいマクロ経済のパフォーマンスを続けてきた。主な原因は、日本銀行の金融政策が、過去一五年あまり、デフレや超円高をもたらすような緊縮政策を続けてきたからだ。
さすがに、近年の円高や不況に対する国民と政治からの批判に耐え切れなかったのだろう。加えてアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ目標(ないしゴール)を決断したこともあり、二〇一二年二月一四日、バレンタインデーに、日銀は一パーセントのインフレを「目途」とする政策に踏み切った。
FRBのインフレ・ゴール設定を受け、日銀によってとられた政策は、その英訳を見れば分かるとおり、インフレ「ゴール」の設定に他ならない。「目途」はゴールや目的と違うといった詭弁的な議論は日銀の得意とするところだが、読者は巻き込まれなくてもいい。
中途半端なのは、目標値が二パーセントでなく一パーセントだというところだ。これではバレンタインデーの「ギフト」というより、「義理チョコ」だというのが第一印象だった。それが半年たって、チョコレートをあげると見せかけただけだったことを痛感した。
いま国民生活に多大な苦しみをもたらしているのは、デフレと円高である。デフレは、円という通貨の財に対する相対価格、円高は外国通貨に対する相対価格──つまり貨幣的な問題なのである。したがって、それはもっぱら金融政策で解消できるものであり、また金融政策で対処するのが日本銀行の責務である。
先述したように、私は日銀総裁である白川氏に、総裁自身が以前論文に書いていた正しい経済学に帰ってくれ、正しい歌を歌ってくれと懇願した。二〇一二年二月の政策変更に至るまで、それは聞き入れられなかったのだが。
日本経済にも詳しいハーバード大のデール・ジョルゲンソン教授は、日本銀行が新たな政策を発表するたびに、「コーイチ、今度の政策にお前は合格点を与えるか?」と問いただしてくる。