浜田宏一「教え子だった白川方明日銀総裁はどこで道を誤ったのか」

『アメリカは日本経済の復活を知っている』より第1回

〈総裁の政策決定の与える日本経済への影響の大きさ、しかも、それによって国民がこうむる失業等の苦しみなどを考えると、いま申し上げておくことが経済学者としての責務と考えましたので、あえて筆をとった次第です〉

 私は、白川氏に対して個人的に含むものは何もない。むしろ、彼の人格は、いまでも高く評価をしている。書簡にも書いたように、私と意見が分かれていることがはっきりしたあとでも、彼は、私のために日本の金融の現状を説明する目的で、日銀スタッフとの昼食研究会を開いてくれた。

 のちに問題にならないよう、割り勘にしてくれたのも、彼の気遣いだ。そこで私は、日本銀行の政策の背景について、いろいろと学ぶことができた。彼の態度は、あくまで紳士的だった。だからこそ、私は書簡にこう書いている。

〈私はいままで、貴兄の個人的な聡明さ、誠実さ、謙虚さなどをいっさい疑ったことがありません。しかし、いま重要なのは、いかに論理的に明晰な貴兄が誠実に信じて実行されている政策でも、それが国民生活のためになっていないのではないかということです〉

〈いま起こっている疑問は、「貴兄のように明晰きわまりない頭脳が、どうして『日銀流理論』と呼ばれる理論に帰依してしまったのだろう」ということです〉

『アメリカは日本経済の復活を知っている』
著者:浜田 宏一
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「日銀流理論」と、世界に通用する一般的な(そして歴史ある)金融論、マクロ経済政策との間には、大きな溝がある。その結果としてもたらされたのは、国民生活の困窮だ。とりわけ高校・大学の新規卒業者の就職率が大きく落ち込んでいることは深刻な問題である。経済問題は、庶民の生活、その原点から考えていかなくてはならないのだ。

〈若者の就職先がないことは、雇用の不足により単に現在の日本の生産力が失われるだけではありません。希望に満ちて就職市場に入ってきた若者の意欲をそぎ、学習による人的能力の蓄積、発展を阻害します。日本経済の活力がますます失われてゆきます〉

〈日本銀行は、金融政策というこれらの課題に十分立ち向かうことのできる政策手段を持っているのです。日本銀行はそれを認めようとせず、使える薬を国民に与えないで、日本銀行が国民と産業界を苦しめていることを自覚していただきたいと思います〉

送り返されてきた本

 この公開書簡のなかで、私は総裁を「歌を忘れたカナリヤ」だと記した。金融システム安定化や信用秩序維持だけを心配し、もうひとつの重要な任務であるマクロ経済政策を忘れてしまっていると思えたからだ。

〈白川君、忘れた「歌」を思い出してください。お願いです〉