[サッカー]
田崎健太「里内猛が描く日本の未来図Vol.3」

~ジーコ、オシム、関塚を支えたフィジコ~
スポーツコミュニケーションズ

製鉄所らしいグラウンド

「こんにちは」
 里内が声を掛けると、ジーコは「Todo bem(こんにちは)」と俯き気味に返してきた。ブラジル人といえば、サンバなど明るくて陽気な性格というイメージを抱いていた。しかし、目の前のジーコは物静かで禁欲的な印象があった。

 まずは国道124号線を走って鹿島神宮に連れて行くことにした。鹿島神宮は太平洋に面した鹿島灘と北浦という湖の間に位置する。ジョナスが車の中から「これが鹿島神宮だ」と指さすとジーコは軽く頷いた。その後、製鉄所の中にある練習グラウンドに向かった。
 練習グラウンドを見たジーコは「Bom(いいね)、Bom、Bom」と言った。里内は「“Bom”ではないだろう」と思っていた。
 というのも、資材置き場の横にある練習グラウンドは、海からの強風にさらされ、製鉄所の粉塵が舞うこともあった。
 芝生のグラウンドは会社に頼んで作って貰った。だが、ある日、グラウンドに行くと、ぷっくりと芝生の一部分が膨らんでいた。昨日までは平らだったのに、と皆が首を捻った。雨が降ると、膨らみは元に戻った。しかし、後日にはまた別の場所が膨らんでいた。まるで怪奇現象だった。

 原因はすぐに分かった。一般的に芝生を植える場合は、水はけを良くするために砂利を敷き、その上に土を盛る。だが、住友金属の練習グラウンドは、砂利の代わりにスラグを使用していた。スラグとは鉄を作る際、溶鉱炉にできる〝鉱さい〟を冷却し砕いたものである。道路の路盤材や鉄道の道床材に使用されている。製鉄所ではスラグが豊富にあり、工場内の緑地の地盤にも利用していた。

 できたばかりのスラグは内部にガスを含んでいる。そのガスが芝を押し上げていたのだ。ガスの発生は不定期に起こり、グラウンドのあちこちに凹凸ができた。練習中に選手が凹凸に引っかかって、突然転んだりすることもあった
 その他、会社が作ってくれたミニゲーム用のゴールも世界に2つとないものだったろう。それは製鉄所らしく太い鉄棒を溶接したものだった。非常に重く「台風が来ても倒れへんで」と里内たちは軽口を叩いたものだった。