二宮清純レポート
勝負の厳しさを誰よりも知る男 森脇浩司 オリックス監督「人生は微差が大差を生む」それに気づいたから、いまの自分がある

週刊現代 プロフィール

 ところがチームは4月から低迷し、一度もAクラスに浮上することなくシーズンを終えた。

 何が足りなかったのか。

「一言で言えば、アウトを取る確率が低かったということ。これはバッテリーを含めた守り全体の問題ですね。強いチームなら27個アウトが取れるところを、ウチは24個しか取れていない感じだった。

 一方、攻撃に目を移すと、ひとつでも前の塁を狙おうとの意志とスキルがあれば、もう少し点が取れていたのではないか(443得点はリーグ最低)。同じ2-1のゲームでも勝つのと負けるのとでは大違いです」

 '12年、オリックスは1点差勝ちが17試合だったのに対し、1点差負けは24試合。1点差ゲームの勝率(4割1分5厘)はリーグ最低だった。僅差こそは実力差であり、微差がやがて大差になるという森脇の見立てをデータは、はっきりと裏づけている。

プロとして恥ずかしいこと

 こうした意識づけを若手たちに徹底して行ったのが、'11年の巨人二軍内野守備走塁コーチ時代である。

 春のキャンプ中、森脇は選手たちの動きを見ていて、あることに気づいた。左ピッチャーがマウンドにいる際、一塁ランナーはピッチャーと目があっただけで帰塁しかける。まるで〝パブロフの犬〟のように。

 確かにセットポジションで向き合う左ピッチャーから二塁を奪うのは容易ではない。リードを広げて逆を突かれると牽制で刺されるリスクも高くなる。アウトになって咎められるくらいなら自重しよう……。森脇の目に巨人の二軍選手の姿はそう映った。

 こうした消極的な姿勢を一掃するため、森脇はあるキーワードを用意した。

「疑わしきは沈め!」

 牽制球がくるかどうかわからない時は、いちいち帰塁しかけるのではなく、体勢を低くして、まず様子を窺えと指示したのだ。

 この狙いについて聞いた私に、森脇はこう答えた。

「もし一塁まで戻りかけたところでピッチャーが本塁に投げ、バッターがボテボテの三遊間のゴロを打ったらどうなるか。わざわざ戻ったりしなければ、かなり高い確率で二塁はセーフになるでしょう。しかし、戻ってから再スタートを切っても二塁はアウト。下手したら併殺になる危険性もある。

 これはバントの時も同じことが言えます。左ピッチャーが右足を上げたところで一塁に戻ろうと動いてしまえば、よほどいいバントをしない限り、二塁でアウトです。一度戻るのと、そのまま走るのとでは3歩の差が出る。つまり、簡単に(塁に)戻ろうとする行為はプロとして恥ずかしいことなんです」