「ものすごく大きく、そして小さい」宇宙という世界の不思議!

「宇宙になぜ我々が存在するのか」中編
村山 斉 プロフィール

 それでは、どうすればニュートリノの存在を知ることができるのでしょうか。一番簡単な方法は、ものをたくさん置くことです。

 同じ駅のホームでも、朝の通勤時間帯と、昼間のすいている時間帯では、雰囲気が違います。通勤時間帯はたくさんの人がいて混み合っているので、急いでいるのになかなか前に進めないなんていうことがよくあります。混んでいると、注意して歩いても人にぶつかってしまいます。

 それと同じように、一つの場所にたくさんのものを置けば、たまに一つくらいはニュートリノがコツンとぶつかってくれるはずです。

 試しに太陽からのニュートリノを捕まえようとして、どのくらいの量の鉛の塊を置いたらニュートリノがぶつかるのかを計算してみました。そうすると、出てきた答えは、塊なんて生易しい量ではありませんでした。なんと、鉛を三光年くらいの厚さに積み重ねてやっと一回、確実にぶつかるというのです。三光年というのは、光が秒速三〇万キロメートルの速さで三年かかって進む距離ということです。だいたい隣の星までの距離にあたります。それだけの量の鉛は地球上にありませんし、積み重ねること自体できないわけですが、そのくらい恥ずかしがり屋さんで、めったなことでは他のものと反応せず、その存在自体を知ることができない、お化けのような素粒子なのです。

(全3回です。後編はこちら!

著者:むらやま・ひとし
一九六四年東京生まれ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の初代機構長、特任教授。米国カリフォルニア大学バークレー校物理教室教授。理学博士。東北大学大学院理学研究科物理学科助手、ローレンス・ バークレー国立研究所研究員、カリフォルニア大学バークレー校物理学科助教授、准教授を経て、同大学物MacAdams冠教授。専門は素粒子物理学。二〇 〇二年、西宮湯川記念賞受賞。著書『宇宙は本当にひとつなのか』ほか多数。

宇宙になぜ我々が存在するのか
最新素粒子論入門
村山 斉 著

この宇宙に存在する「私」の起源に迫る
最新素粒子物理学で解く宇宙と私の謎
村山先生の最高傑作!

宇宙の見方が変わる最新素粒子論

私たちは星のかけらからできています。
では、その星たちは何からできているのでしょうか。
宇宙のはじまりにどんどん近づきながら、
宇宙はどうやってできてきたのか
どうして私たちがこの宇宙に存在しているのかを
ニュートリノ、ヒッグス粒子、インフレーション、暗黒物質など
最新の知見を手がかりに解き明かしていきます。

内容紹介

 私たちは宇宙の塵からできているといわれています。じつは、宇宙が原子よりもっと小さくて熱かったころ、塵のもとになった物質と、その反物質が衝突しては消え、新しい物質と反物質が生まれては消えて……、そんなことを繰り返していました。

 それがあるとき、宇宙の温度が少しだけ下がると同じ数だけあった物質と反物質のバランスが崩れ、ほんのわずかな反物質が物質に変わり、私たちが存 在する物質だけの世界ができたお蔭で、私たちが生まれてきたというのです。その鍵を握っているのが、いままで質量がゼロだと思われていたニュートリノに あったというのです。・ニュートリノにどうして質量が生まれたのか?

・ニュートリノはどうして宇宙に一番多く存在しているのか?
・右巻きニュートリノはどこへ消えたのか?
・なぜ左巻きニュートリノはこんなに軽いのか?
・ヒッグス粒子はどうして今まで見つからなかったのか?
・ヒッグス粒子はどうやってニュートリノに質量を与えたのか?
・重力はどうして遠くまで力を伝えられるのか?
・物質と反物質のバランスが崩れたのはいつ頃か?
・暗黒物質の正体はいったい何なのか?
・インフレーションのときの宇宙はどうやって観測するのか?

 ニュートリノの不思議な性質をさぐりながら、ヒッグス粒子やインフレーション、そして暗黒物質との関わりを解き明かし、どうして、私たちがこの宇宙に生まれたのかを考えていきましょう。