もし「反物質」でできたアイスクリームがあったら? 宇宙と私の謎

「宇宙になぜ我々が存在するのか」前編
村山 斉 プロフィール

 そして、ペアでないと消滅できないので、反物質が存在していた数だけ物質も消滅したはずです。どちらか片方だけで消滅したということはないので、ふつうに考えればこの宇宙には何も残らずに、物質も反物質もない世界になるはずでした。

 でも、私たちはこの宇宙に存在します。これはもともと同じ数だった物質と反物質を、途中で誰かが反物質をつまんで、物質の方に移し替えたのではないでしょうか。そうでもしない限り、こんなことは起こりません。でも、そんなふうに都合よく、反物質が物質になるのでしょうか。

 これはまさしく、私たちにとって生きるか死ぬかの問題です。反物質はどうして消えてしまったのでしょう。実は、もしかしたら、この謎がもうすぐ解けるかもしれないのです。

 その鍵を握っているのは、ニュートリノという小さな粒子だと考えられています。ニュートリノは調べれば調べるほど、不思議な性質をもっていて、暗黒物質やインフレーションと深く関わってくるのかもしれません。もしかしたら、私たちがこの宇宙に生まれることができたのも、ニュートリノのおかげかもしれないのです。それだけではなくヒッグス粒子やインフレーション、そして暗黒物質なども、私たちが生まれてくるために必要であったことがわかっています。

 今から、その鍵を解いていき、どうして、私たちがこの宇宙に生まれたのかを考えていきましょう。

(以下、中編へ続く)

著者:むらやま・ひとし
一九六四年東京生まれ。東京大学国際高等研究所カブリ数物連携宇宙研究機構(Kavli IPMU)の初代機構長、特任教授。米国カリフォルニア大学バークレー校物理教室教授。理学博士。東北大学大学院理学研究科物理学科助手、ローレンス・バークレー国立研究所研究員、カリフォルニア大学バークレー校物理学科助教授、准教授を経て、同大学物MacAdams冠教授。専門は素粒子物理学。二〇〇二年、西宮湯川記念賞受賞。著書『宇宙は本当にひとつなのか』ほか多数。

宇宙になぜ我々が存在するのか
最新素粒子論入門
村山 斉 著

この宇宙に存在する「私」の起源に迫る
最新素粒子物理学で解く宇宙と私の謎
村山先生の最高傑作!

宇宙の見方が変わる最新素粒子論

私たちは星のかけらからできています。
では、その星たちは何からできているのでしょうか。
宇宙のはじまりにどんどん近づきながら、
宇宙はどうやってできてきたのか
どうして私たちがこの宇宙に存在しているのかを
ニュートリノ、ヒッグス粒子、インフレーション、暗黒物質など
最新の知見を手がかりに解き明かしていきます。

内容紹介

 私たちは宇宙の塵からできているといわれています。じつは、宇宙が原子よりもっと小さくて熱かったころ、塵のもとになった物質と、その反物質が衝突しては消え、新しい物質と反物質が生まれては消えて……、そんなことを繰り返していました。

 それがあるとき、宇宙の温度が少しだけ下がると同じ数だけあった物質と反物質のバランスが崩れ、ほんのわずかな反物質が物質に変わり、私たちが存在する物質だけの世界ができたお蔭で、私たちが生まれてきたというのです。その鍵を握っているのが、いままで質量がゼロだと思われていたニュートリノにあったというのです……。
・ニュートリノにどうして質量が生まれたのか?
・ニュートリノはどうして宇宙に一番多く存在しているのか?
・右巻きニュートリノはどこへ消えたのか?
・なぜ左巻きニュートリノはこんなに軽いのか?
・ヒッグス粒子はどうして今まで見つからなかったのか?
・ヒッグス粒子はどうやってニュートリノに質量を与えたのか?
・重力はどうして遠くまで力を伝えられるのか?
・物質と反物質のバランスが崩れたのはいつ頃か?
・暗黒物質の正体はいったい何なのか?
・インフレーションのときの宇宙はどうやって観測するのか?

 ニュートリノの不思議な性質をさぐりながら、ヒッグス粒子やインフレーション、そして暗黒物質との関わりを解き明かし、どうして、私たちがこの宇宙に生まれたのかを考えていきましょう。

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