有名人の主治医が語る「命を救った治療」~理想の医師とはいったい何だろうか。著名人5人が全幅の信頼を置く名医が、その治療法と信念を余すところなく明かした。

フライデー プロフィール

 治療といっても、腸閉塞で手術を行うケースは少なく、食事を絶って点滴による栄養補給で腸の安静を保つことで、しばらくすると症状が改善していくのが一般的だ。しかし、そのたびに入院を必要とするため、仕事をキャンセルしなければならず、周囲に迷惑をかけてしまう。それが仁科にとっては、耐え難い苦痛だったのだ。

 一旦、症状が治まっても、いつまた腸閉塞の痛みが襲ってくるか分からない—。精神的な苦しみも抱え込んだ仁科は、旧知の渡邊医師を頼ったのだった。

「また突然繰り返すのかと思うと、この先安心して仕事も受けられないし、海外旅行にも行けない。何とかしてほしいと頼まれたんです。

 実は、腸閉塞の手術は非常にやっかい。というのも、手術のため開腹すると一時的に腸の動きが止まるため、新たな癒着が起こりやすくなる。つまり、何度も手術を繰り返すハメになってしまうので、医師もお手上げ。食事を絶ってやりすごす人が多いのはそのためです」

 ところが渡邊医師は、開腹しない腸閉塞手術に取り組んでいた。それが、鳥越のケースと同じく腹腔鏡での手術である。

「腹腔鏡下手術の大きなメリットの一つに、開腹しないため術後に癒着しにくい点が挙げられます。そこで私は、腹腔鏡下手術を腸閉塞にも応用できないかと考えました。ただ、癒着している部位(仁科の場合は腸管と骨盤)を、腹腔鏡で見ながら精密に剥がしていくため、確かな技術と経験を要します。私は10年ほど前から腹腔鏡での腸閉塞手術を行っていますが、長いと7時間近くかかることもある。きわめて難度が高いので、日本では腸閉塞治療のガイドラインには組み込まれていません。

 加えて彼女の場合は虫垂炎も併発していたので(発熱はこれによるもの)、そちらの処置も加わる。術前の説明で、成功するか否かは五分五分であること、炎症がひどい場合は腹腔鏡から開腹手術に移行する可能性があることも伝えましたが、彼女の決断は揺らがなかった」

 3時間に及ぶ手術は成功。それ以来、仁科に腸閉塞の症状は現れていない。手術から半年後には、海外旅行も楽しむことができた。

「私の本来の専門は腸閉塞の治療ではなく、大腸ガンの外科治療なんです。われわれガン治療の専門医は、『命は助かったんだから、術後のことは我慢してほしい』と考えがちです。すなわち、腸閉塞などの合併症に苦しむ患者さんに思いが及ばないこともあるかもしれません。

 ですが、せっかくガンを克服したのだから、その後の人生こそ快適に過ごせるように考えるのが、本来の医療の姿です。腸閉塞は、ガンなどに比べれば生命の危機に瀕するリスクは低いかもしれません。しかし、患者さんの生活の質を向上させるために手術に取り組むことも、外科医の使命だと思っています」