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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第10回】
バレンタインデーの恥ずかしい勘違い

奥村 隆 プロフィール

 しばらくして、その話を隣の席の女の子にしたところ、「奥村君、『ここ』が指なわけがないでしょ。先生は、黒板に書いた式のことを言ってたんだよ」と呆れられ、初めて自分の間違いを知った。

 その女の子には「バカじゃないの」と笑われもしたが、別に悔しさは感じなかった。むしろ、他に似たような勘違いをする子が一人もいなかったので、「みんな、どうして『ここ』と言われて指だと思わないんだろう?」と首をひねった記憶がある。

「なぜ0点を取ったの?」と悪意なく質問

 医師に聞くと、この種の勘違いは、僕や息子のようなASD(自閉症スペクトラム障害)の人間には珍しくない症状なのだという。

 普通の人なら自然に理解できる「言わずもがなのこと」について、まったく違う意味だと思い込んだり、記憶が完全に抜け落ちてしまったりすることが多いらしい。でも、本人は勘違いしているつもりは皆無なので、周囲が気づいて指摘してくれない限り、延々と「おかしな行動」を取り続けることになる。そこが非常に悩ましく、誤解されやすいところだと思う。

 こういった僕の「おかしな行動」も、他人に迷惑をかけたり、他人から嫌われたりする原因になることがよくあった。

 僕は小学校時代、授業でテストの答案が返ってくると、非常に悪い成績(たとえば0点やそれに近い点数)を取った同級生のことが気になって仕方がなかった。と言っても、別にバカにしてやろうとか、からかってやろうなどと底意地の悪いことを考えたわけではない。ただ頭の中で、「どうして彼はあんな点を取ってしまうのか?」という純粋な疑問が芽生え、どんどん大きくなっていっただけなのだ。

 「○○君はなぜあんな問題で0点を取るのだろう?」「いったいテストのどこがわからないのだろう?」・・・と、悪い成績の理由を知りたいという気持ちばかりがどんどんエスカレートしていく。そして、その理由がわかれば、○○君に、どうすれば成績が良くなるのか教えてあげたい---とまで考えてしまうのだった。

 ある日、近くの席に座っていた男子児童が、0点の答案を返されて、「テストなんてわかんないよ!」と叫んでいたことがある。僕は「聞くのは今だ!」と思い、「ねえ、なんでテストができなかったの?」「なんで0点なんか取っちゃったの?」「最初の問題なんて簡単だけど、どうして解けなかったの?」と畳みかけるように尋ね、「教えてあげようか」と言った。