第3回はこちらをご覧ください。
米田 『ナリワイをつくる 人生を盗まれない働き方』という本を出されて、反響はどうですか?
伊藤 初版は5000部印刷したんですけど、「どうせ売れないだろう」という感覚で始めました。無駄に期待してもガッカリするだけやから、まず、すぐに絶版にならないことを目標にしまして。
米田 低めの目標設定ですね(笑)。
伊藤 「目標を高く持つ」ということを会社員のときに散々やらされたんですけど、自分の性格に合わないんですよ。しかも、達成できないときの落胆が大きいんです。「広告を200件取る」という意気込みで始めて、集まったのが110件だとがっくりするんですよ。なのに、外部の人に聞くと、「そんなに集まったんですか」と感心されたり。そういう経験があったので、「無駄に落胆する考え方はしない方がいいな」と思いました。
米田 今、日本人に鬱が多いのは、自己イメージと現実が乖離しているせいですよね。そのギャップに耐えられなくなっている。自己評価の設定がすごく高くて、現実がそれに遠く及ばないと、やっぱり鬱になってしまう。
伊藤 そうすると、人間は「あぁ、やっぱり自分ってダメだな」となっちゃうんです。自分の評価が理不尽に下がっていく。それは危険なことですよ。
僕はもう、自己に対する評価をあまり気にしていませんけど、自己評価が下がりまくっている人をたまに見かけるんです。たとえば、ややブラック企業的な会社にいるけれども、仕事ぶりを見るとかなり有能な人。「なかなかいい仕事をしてるな」と外から見ると思うんですけど、自信がなさげなんですよね。「収入は下がるかもしれんけど、とりあえず辞めて、しばらく一人でやってみたら?」とアドバイスしても、「いやぁ、私なんかじゃ全然無理です」みたいになっちゃうんですよ。
客観的に見たら実力はある。でも、やたらと高い目標を掲げるから、達成できなくて、その結果、ますますハードワークをして睡眠不足や体調不良になる。そういうことを繰り返すと、自己評価がガンガン下がって、本来なら自分ができることも見えなくなり、身動きがとれなくなっていく。
僕は、そういう負のスパイラルになるべく近寄らないようにしたいので、自分の本を出版するときはとりあえず、「すぐ絶版にはならない」という目標から始めました。そうすると、絶版にならなかっただけで祝える。その次に「読んでもらいたい人に読んでもらうにはどうしたらいいのか」ということを一個一個積み重ねていくわけです
米田 絶版どころか、増刷していると聞きましたけど。
伊藤 意外なことに、1万3000部を刷るところまで行きました。こうなると、半年かけて書いた甲斐があったなぁと思います。ありがたいことに、取材もぼちぼちあります。こんなに地味な働き方をしているのに、注目してくれる方がメディア関係の方の中にもいる。これには希望を感じましたね。「黙殺されるのではないか」とも思っていたので。
米田 結局、伊藤さんが会社を辞めてから実践した期間があるので、6~7年かけて取材し、執筆に半年かけたという一冊でもあるんですよね。
伊藤 そう考えると、出版は恐ろしく割に合わない。7年間か・・・。
米田 先日、阿佐ヶ谷ロフトで伊藤さんとphaさんの合同出版イベントが行われて、僕が司会をやらせてもらったんですが、それも最初、集まる人数の設定を低くしてましたよね。「こんな30代のおっさん3人のトークショーに誰が来るんだ」と。
伊藤 表面的に見ればむさくるしいですよね(笑)。
米田 なんて言ってたら、当日券を求めるお客さんが並ぶくらいの超満員になって驚きました。
伊藤 120人も来ていただいて、密な空間になりました。