弱くても勝てます 開成高校野球部のセオリー【HONZ】

 彼は固い地面もこわいそうで、ヘッドスライディングができないという。
ショートを守る2年生が言う。

「僕は球を投げるのは得意なんですが、捕るのが下手なんです」

 著者が「苦手なんですね」と相槌を打つと、「いや苦手じゃなくて下手なんです」と答える。そして「苦手と下手の違い」について淀みなく説明する。野球ではなく、国語の問題か?と思う著者。ちなみに開成中学校の国語の入試問題は選択式は一切なく、すべて記述式だそうだ。

 そしてサードの3年生は胸を張る。

「エラーは開成の伝統ですから」

 エラーしまくると相手は油断する。エラーは一種の戦略でもあるのだ。
そして個人的に一番気に入ったのは、2年生のピッチャーのこの一言

「実は、僕は逆上がりもできないんです」

 念のため書いておくが、小学2年生ではなく、高校2年生である。

 そんな面々が集う開成高校野球部の青木英憲監督がポジションを決める基準は極めて簡単だ。

・ピッチャー/投げ方が安定している。
・内野手/そこそこ投げ方が安定している。
・外野手/それ以外。

 向き不向きで決めようとしたら、全員が野球に不向き、ということになってしまう。 監督が言うには、「存在してはいけないチームになりかねない」のだ。

 ピッチャーに関しては、勝負以前に、「相手に失礼にならないことを第一に考えている」と青木監督はいう。

「球がストライクゾーンに入らないとゲームになりませんから」

 開成高校野球部には送りバントやスクイズはない。そもそもサインプレーがなく、監督は大声で指示を出す。サインプレーをし、スクイズで1点取っても、意味がない。なぜならていねいに1点取ったところで、その裏に相手に10点取られてしまうからだ。

「送りバントのような局面における確実性を積み上げていくと結果的に負けてしまうんです」とは聡明なる監督の弁である。

 そんな開成高校野球部の戦略は以下のようなものだ。

 まず、1番から6番まで、できる限り強い打球を打てる選手を並べていく。もっとも強い打者は2番。そして、ひたすら強振する。一番チャンスがあるのは8番、9番からはじめるイニングで、彼らがうまいことヒットやフォアボールで出塁した場合だ。下位打線を抑えられなかったことで動揺する相手ピッチャーに1番が強振して長打、そして最強の2番打者が打つ。弱いチームに打たれたことにショックを受けている相手を逃さず、後続がとにかく振り抜いて連打を食らわせして大量点を取るイニングを作り、そのままドサクサに紛れて勝つ、のだそうだ。

 超進学校の勝てるセオリーは「ドサクサ」なのである。そして、実際そうやって勝ち上がってきたことは、冒頭の戦績で見た通りだ。