# 「息子と僕のアスペルガー物語」 # ライフ

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第9回】
まったく悪気なく「ひどいこと」を言ってしまう理由

奥村 隆 プロフィール

 弁解する訳ではないが、僕が作ったカレーはそれなりにおいしいと思う(現に妻も誉めてくれた)。しかし、息子の頭の中で、「おいしいカレーの味」は、普段食べている「お母さんのカレーの味」と完全にイコールで結ばれている。それ以外の味は一切、「おいしいカレーの味」とは認識されない。つまり、妻が作ったカレーと同じ味でなければ、すべて「おいしくない=イマイチ」のカレーになってしまう。

 これはカレーに限らない。超一流のシェフが腕によりをかけて作った豪華な料理でも、あらかじめ頭の中で「おいしい味」と決めているものと合致しなければ、息子には「おいしくない」で片づけられてしまうのだ。

 そして、ここからもまたASDの特徴的な点なのだが、息子は、事実だと思ったことについて、相手の気持ちを忖度(そんたく)して発言するということができない。つまり、思ったことを、何かしらのオブラートに包んで相手に伝えるという能力が欠如しているのだ。言い換えれば、本音と建前を使い分けるとか、場の空気を読んで発言するといったことが一切できない。

 したがって、息子の中では、「おいしいカレーの味はお母さんのカレーの味だけ」→「お父さんのカレーはお母さんのカレーと味が違う」→「お父さんのカレーはイマイチ」→「お父さんのカレーがイマイチなのは事実だから、そう口に出す」、という具合に思考と言動が進んでいくのだろう。しかし、作った側(つまり僕)は、カレーの味に自信があっただけに、大きなショックを受けてしまう。

 実際、僕も息子に対して、「君に『食べたい』と言われて3時間半も料理したのに、その感想が『イマイチ』なの? ひどいなあ。他に言うことはないのか?」と聞いてみたかった。しかし、それはすぐに思いとどまった。息子はきっと、

 「お父さんのカレー、本当においしくないんだよ。おいしくないのに『おいしい』と言えってこと? お父さん、僕に嘘をつけというの?」

 と逆ギレするだろうと考えたからだ。

 こういう独特の思考と言動の回路こそが、発達障害の人が「空気を読めない」とか「他人の気持ちがわからない」などと言われたり、「他人とコミュニケーションを取るのが苦手」と決めつけられたりする原因になっていると僕は思う。