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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第9回】
まったく悪気なく「ひどいこと」を言ってしまう理由

奥村 隆 プロフィール

殴られたようなショック

 テレビで正午の時報が鳴った直後、僕のカレーは完成した。

 煮込んでいる間、料理に使った包丁やボウルは全部洗ってしまったので、台所はピカピカだ。息子は妻と一緒にテーブルにつき、「お父さん、早く食べたいよ~」と急かしてくる。それが何とも嬉しく、息子が常にもまして愛らしく思える。

 僕は「さあ、できたよ」と一声かけると、息子と妻の皿にご飯とカレーをたっぷりと注ぎ、いそいそとテーブルへ運んだ。息子は「うわぁ、おいしそうだね」と相好を崩すと、大きな声で「いただきます!」と言って手を合わせた。そして、スプーンでカレーとご飯を少し混ぜ、パクリと一口。

 僕は「どうだ、おいしいか?」と聞いてみた。事前に味見をした限り、うまくできているはずだ。妻はすぐに「おいしいね」と誉めてくれた。あながちお世辞でもなさそうだ。

 ところが、息子からは何の反応もない。小さい口をもぐもぐさせながら、じっと何かを考えている。僕は、自分の分を食べるのも忘れて、息子が「おいしい!」と感想を言うのを待っていた。

 しかし、息子の口から出たのは意外な言葉だった。

 「お母さんのカレーの方がおいしいよ。お父さんのカレー、イマイチだね」

 僕は、いきなり棒で殴られたようなショックを受けた。思わず、「うへっ」と変な声を出してしまったくらいだ。息子は、自分の発した言葉で父親が腰を抜かしそうな衝撃を受けたことに気づく様子もなく、「イマイチ」と評したカレーを黙々と食べ続けていた。

 息子を喜ばせようと張り切って作った分、かなりこたえた。妻が同情を込めた視線を僕に送ってくるのがわかった。しかし、呆然としている僕には、それに目配せで応じる余裕もなかった。

なぜ「空気が読めない」と言われるのか

 言うまでもないことだが、息子にはまったく悪気がない。ただ、「思ったこと」をそのまま口に出しただけなのだ。

 このときの息子の思考回路を、同じASD(自閉症スペクトラム障害)を持つ僕が推測してみたい。