二宮清純「75年日本シリーズ、西宮球場“鉄塔伝説”の真相」

二宮 清純 プロフィール

“ボールが消える”スタジアム

 その頃、ささやかれていたのが西宮球場の“鉄塔伝説”です。夕方近くになると、一塁側の鉄塔の影が伸びてきて、マウンドとホームベースの間を横切る。それが原因で一瞬、ボールが消えるような錯覚に陥る。セ・リーグの選手は西宮球場のデイゲームには慣れていないため、対応できなかったのではないか。そんな説です。

 これは事実なのでしょうか。過日、元阪急の外野手で、この試合、ライトでスタメン出場をしていた大熊忠義さんに会う機会があり、真相を訊ねてみました。結論から述べれば、この話は「事実」でした。

「ちょうど、あの時間帯が一番見えにくいんです。鉄塔の影の幅は3メートルから4メートルくらいはありましたかね。バッターの立場からすると、(日向の)白、(日影の)黒、白という印象なんです。まぶしいところから、ほんの一瞬だけボールが闇に消え、そこから、また明るいところに飛び出してくる。僕らのようなホームの選手でも打ちにくいのやから、慣れていない選手は対応できませんよ。またピッチャーは一番速かった頃の山口高志やからね。

 実はこれが、このシーズン限りで一さん(山本一義)がユニホームを脱いだ理由のひとつなんです。いつだったか、お会いした時に“ワシは真っすぐが打てんようになったから、やめたんや”と言うものだから、僕は“一さん、あの時間帯はボールが見えんのですよ”と慰めたのを覚えています」

 このシリーズ、阪急は4勝2分けで広島を下し、日本一になりました。山口さんは4試合に登板し、1勝2セーブでMVPに輝きました。これまで阪急は日本シリーズに弱く、巨人に5連敗を喫していました。つまり、これが球団史上初の日本一でもあったんです。