東大教授が匿名で明かすホンネ
ピンは変わらない、キリは劣化

「東大までの人」と「東大からの人」第2弾 vol.3
週刊現代 プロフィール

 こういった状況の原因の最たるものとして、指導要領の改訂による受験科目の減少がある。工学部の准教授は言う。

「'90年、新指導要領により共通一次試験がセンター試験になり、科目が7科目から6科目に減りました。これによって受験生の知識量は圧倒的に減ったといっても良く、東大生の質も落ちた。
  世界史も、日本史も、地理も、地学も、哲学も学んだことがない。そんな学生ばかりになったのですから、教養の量は圧倒的に減って、同じ能力を持った学生や集団でもアウトプットはかなり違ってくるのは当然です。

 私が学生だった'90年頃には、当時の先生から、『今の学生は知的年齢は、実年齢から4歳引いて考えないといけない』と言われました。つまり大学1年なら高校1年くらいの知性だというわけです。最近は、実年齢から10歳引くという先生もいますね(笑)」

 さらに、「大学院重点化」などの文科省の政策による定員数の増加が、東大生劣化の原因の一つだという意見もある。理学部教授の話。

「理学系では大学院から研究に本格的に取り組むわけですが、私が学生のときは、学科では1学年18人でしたが、今は95人です。ちなみに応募者数は120人でしたから、倍率はほとんど1倍。だれでも入れるようになってしまった。
  こうなると、ただテストの点数が取れたから、成績が一定に達していたから、家にお金があるからというだけで大学院に進学する学生も増えてくる。強い意志や目標、大きな夢を持って学生が集まっていた昔とは、まったく違う環境になってしまっているのです」

工学部は法学部より優秀

 しかし逆の意見もある。東大工学部環境海洋工学科教授で、世界最高峰のヨットレース「アメリカズ・カップ」に参戦した日本チームのテクニカルディレクターであり、新領域創成科学研究科を創設した宮田秀明氏だ。

「学生の質が低下しているなんてとんでもなく、変わっていません。特に工学部の学生は、依然としてたとえば法学部の学生よりもはるかに優秀です。

 文系でも、研究をする上で英語など外国語を使いこなせるようにしなければなりませんが、工学では身に付けねばならないものがもっとたくさんある。数学、物理、プログラミングなどの勉強もしなければならず、さらに実験器具を自分で作ったりすることもあります。

 ただ、問題は別のところにある気がします。今の学生は『なんのために生きるのか』『なぜ仕事をするのか』ということを深くきちんと考えたことがありません。そしてコミュニケーション能力が低く、体力もない。こうした要素のほうが、人間が大成するには必要なことなのだと思います」

 もっとも、それは学生のせいばかりでもないと工学部のある准教授は言う。質の低下を嘆くなら、学生よりも教員に問題があるというのだ。