「郡山で出血を起こした翌日、見舞いに来た息子から孫が生まれると報告を受けたんです。待望の初孫。何とか半年生きたいと思いました。その半年がここまで延びて、今は孫と散歩もできる。あそこで諦めず不破先生に巡り会えたことで、それまでとは全く別のいい人生を頂きました」
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愛知県東海市在住の関口優子さん(仮名・73歳)は、厳しいがんを宣告され、転院する日の朝、夫に頼み車で自宅に寄ってもらった。
「胆汁を出すチューブがおなかについていたので車からは降りませんでしたが、手術の前に住み慣れた我が家をひと目見ておきたかった。もう戻ってこられないかもしれないと思って・・・・・・」
関口さんが患っていたのは「肝門部胆管がん」。最初は風邪だと思っていたが、体の異様なだるさと腹部の鈍痛、嘔吐が続き、検査の結果、がんが発覚。ステージ・aにまで進行していた。
「病院で指摘されるまで気づかなかったのですが、黄疸で白目も手の指も真っ黄色だったんです。体中がかゆいのも、尿が紅茶みたいに赤いのも黄疸の典型的な症状だと言われました」
肝門部胆管がんとは、肝臓でつくられる胆汁を十二指腸まで運ぶ経路である胆管が肝臓の内から外に出る辺り(肝門部)に生じるがん。周りの組織に染み込むように拡がり、血管に入り込んでいくため、手術は高難度の技術が求められる。
「聞いたこともないがんで、先生に説明されても、だるさやおなかの痛みでほとんど頭に入ってこなかった」
そう話す妻を隣で支え続けた夫の良和さん(仮名)も、「風邪だと思っていたのが、こんな事態になるなんて。その後、私一人で先生から詳しい説明を聞きましたが、あまりにショックで帰りに車を運転しながら涙が止まらなかった」と語る。
肝門部胆管がんの手術はその高度さゆえに限られた施設でしか行われていない。さらに当時は、「ステージⅣまで進行したケースは、手術をしても延命につながらない」とも言われていた。
「うちでは手術はできないから」と主治医から紹介されたのは、このがんでは世界トップレベルの技術を誇る名古屋大学医学部附属病院腫瘍外科教授の梛野正人医師だった。しかし、そんな梛野医師をもってしても、関口さんの病状は非常に厳しい状況にあった。
「がんが肝動脈と門脈という太い血管にまで拡がっていて、かなりひどい状態でした」(梛野医師)