なぜ奇跡は起きたのか〜末期がん(ステージ4)でも病気に勝った人々

医師と患者が明かす
週刊現代 プロフィール

 動注治療20年の経験を持つ不破医師が道中さんのCT画像を見て気になったのは、舌に映る黒い影だった。

「深い潰瘍を示すもので、動脈から出血が起きるのは時間の問題でした」

 処置が遅れれば、血液が肺に入って窒息死する危険があるという。実際それは数日後に起こった。

「一番つらかったのがこの出血でした。突然舌の奥から血がドクドク出てきて止まらなくなった。それを知った不破先生が飛んで来て、私の口に指を突っ込んで2時間近くじっと押さえて止血してくださったんです」

 その後に動注治療を始め、出血は無事収まり、病状は徐々に回復に向かった。

「希望と諦めで気持ちが揺れる中、動注治療が始まったら痛みが少しマシになったんです。ひょっとしたら助かるのかなと思った。陽子線の治療が半分ほど進んだときに、先生が『道中さん、もう大丈夫や!』とおっしゃったんです。専門的なことはわからなくても、熱心な先生にそう言われたら、少々痛くても頑張れました」

 すべての治療は2ヵ月で終了。抗がん剤の影響で無数の口内炎ができ、1ヵ月は食事に難儀したが、なくなっていた味覚も数ヵ月で戻った。舌がんは「2年以内の再発が多いため3年がひとつの目安になる」(不破医師)というが、道中さんは、再発もなく治療から4年が経過した。

「つばが出にくいので水を飲みながらですが、だいぶ話せるようになりました。舌を切らずに治ったと言っても周りは信じないんですよ。誤診やったんちゃうんって(笑)」

 

初孫のために半年生きたい

 不破医師は、道中さんの回復の理由をこう分析する。

「道中さんは抗がん剤も放射線も感受性がよく、非常によく効いたことが生還した大きな理由だと思います。さらに、陽子線を組み合わせたことで、放射線の影響で歯が抜け落ちてしまうといった後遺症を防ぐことができました」

 助けてもらった命を粗末にできんと、道中さんは生活を一変させた。酒をやめ、食事は野菜と魚が中心だ。

「以前会社を経営していた頃は、家内に瞬間湯沸かし器と言われていました。カッとなったら一刀両断せな気が済まない。病気をせんかったら、私は口で人を斬りまくり、家族も友達も寄って来ない偏屈なオヤジで死んでいたかもしれません。病気と不破先生に真心をわからせて頂いた。おかげで家族の絆もできました」

 最近の一番の楽しみは孫たちの成長だ。