二〇一二年夏、四年間の北京での大使館勤務を終えて、久しぶりに日本に戻ってきた。赴任前と比べ、日本国内における中国への関心が格段に高まったことに非常に驚いている。
テレビをつければ、中国に関するニュースや映像が必ず流れている。一一月に開催された中国共産党大会の際には、多くのニュースキャスターが北京入りし、実況中継まで行われた。新聞でもテレビでも、中国の最高指導者交代のニュースは、同時期に行われた米大統領選と同等以上の扱いだった。日本国内の中国への関心はここまで高まったのかと、正直びっくりした。ほんの数年前とは隔世の感がある。
日本での中国への関心が、これだけ短期間のうちに劇的に高まったのはなぜだろう。もちろん、現下の日中間の外交的対立も大きな背景の一つであるとは思うが、やはり主な理由は経済だろう。
赴任(〇八年六月)する前は、中国といえば、毒物混入餃子に代表される食品安全問題、ニセモノキャラクターに代表される知的財産問題等が話題の中心だった。中国の政治経済に関する話題はかなりマニアックであったし、中国語を勉強している人も限定的だった。当時、中国に赴任すると話すと、「そんなところに行くのか」と哀れそうに言う人もいた。日本国内には、まだまだ中国を遅れた貧しい国として過小評価する傾向が存在したと思う。
それからわずか五年、時代は大きく変わった。中国は、北京オリンピックや上海万博などの国家的イベントを成功させ、世界金融危機を巨額の内需拡大策で乗り越え、着々と経済力を蓄えていった。一〇年には、中国の経済規模は日本を抜いて世界第二位となり、その国際的地位を大きく向上させた。中国の経済指標が、日本のみならず世界中の株価に影響を与えるようになった。
日本国内でも中国関連の書籍が数多く出版され、経済雑誌では頻繁に中国特集が組まれるようになり、少し前まで専門家の世界だった中国の政治経済も、ビジネスマンや学生が高い関心を持つようになった。大学の第二外国語で中国語を選択する学生が激増し、大手商社の新人研修では中国語は全員必修にもなった。日本でも、中国経済に将来性を感じている人がそれだけ増えたことの一つの証左だろう。