『空白を満たしなさい』著:平野啓一郎
現代を「幸福に生き、死ぬ」ということ

 エンターテインメント性と文学性との両立は、近年の私の課題で、読中はひたすら面白く、読後はいつまでもその余韻が消えないというのが理想だが、その成果は感じ取ってもらえるのではと期待している。初出は、漫画雑誌の『モーニング』で、アウェーの緊張感の中で、普段小説を読まない人を念頭に置いて書いたのもいい具合に作用した。

 重たい内容も含んでいる。それは誰にも無関係ではない。しかし登場人物たちが、主人公だけでなく、きっと読者も支えてくれるはずである。

 悲しい場面もたくさん書いたが、脱稿後、私はなぜか、晴れやかな気持ちだった。
決壊』を読んだ読者は、私に、これからどうやって生きていっていいのか、わからなくなったと言った。そして五年後に、この『空白を満たしなさい』を読んでくれた人は、真反対に、今の時代を生きていける気持ちになったと言ってくれた。書いてよかったと、私自身が心から思った瞬間だった。

(ひらの・けいいちろう 作家)

 
◆ 内容紹介
世界各地で、死んだ人間がよみがえる「復生者」のニュースが報じられていた。生き返った彼らを、家族は、職場は、受け入れるのか。土屋徹生は36歳。3年前に自殺したサラリーマン、復生者の一人だ。自分は、なぜ死んだのか?自らの死の理由を追い求める中で、彼は人が生きる意味、死んでいく意味を知る―。私たちは、ひとりでは決してない。新たな死生観を描いて感動を呼ぶ傑作長編小説。
 
平野啓一郎(ひらの・けいいちろう)
1975年、愛知県生まれ。京都大学法学部卒。98年「日蝕」でデビュー。同作が第120回芥川賞を受賞する。2009年『決壊』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、『ドーン』で第19回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。ほかの著書に『葬送』『高瀬川』『滴り落ちる時計たちの波紋』『顔のない裸体たち』『かたちだけの愛』『私とは何か』などがある。

関連記事