財務官僚が分析する「習近平時代の中国経済」

『中国共産党の経済政策』著者・柴田聡氏インタビュー

反日デモの水面下で起きていること

先ほどの説明にあった、「外国に対して、非常に統率力の取れた行動を採る中国の傾向」について教えていただきたいのですが、反日デモのような出来事が起こる場合、トップダウンで文書通達のようなものが降りてきて、組織や国民はそれに従っているのでしょうか。それとも「トップはこう考えているのではないか」と国民のほうが忖度して、独自に動いているのでしょうか。

柴田 いろんなケースが想定されるのですが、まずトップ層が外交的な対立ということで一定の態度を決めると、それが組織の末端のレベルにまでどんどん伝播し、全体のムードを察した国民の間で意思統一が自然となされ、事実上、一枚岩になっていく部分はあると思います。

 ですから、問題が起きてからまもない間は、「こういう局面で日本人と親しくしている場面を見せるのは得策ではない」という判断の下、日本人との接触を避ける政府関係者も多いです。

 しかし、中国が「おもしろい」と思うのは、外に対しては一枚岩であるかのように団結するのですが、他方でみんな個々の事情があって、非常に現実的な面も持ちあわせています。つまり、表立った動きは難しいけれど、水面下では日本人との関係を継続し、経済関係が事実上修復されていく中で、機が熟した頃、トップレベルで外交関係の修復の動きが出て、みんな安心して堂々と交流を再開させる、といった経緯が、これまでも繰り返されてきました。

 今回の対立は相当深刻なもので、私は楽観視していません。しかし、日系スーパーが破壊されるなど反日デモの激しかった青島でも、ある日系の損保会社に対して支店の設立が11月に認められています。実務的な案件や地方の裁量に任されたりしている案件の中には、すでに関係回復に向けた具体的な動きが始まっているものもあります。

地方の裁量というのは、経済の政策自由度の場合、どの程度任されているものなのでしょうか。

柴田 基本的に中央からは大まかな方向性が出されるだけで、具体策については地方の裁量が大きく、それぞれの独自性に任せながら各地方を競争させていく、というしくみを採っています。特に資源開発や外資企業の工場誘致などに関しては、いかにして中央のお墨付きやバックアップを得ながら、優遇策を引っ張ってこられるかどうか―そうした地方による中央へのロビイングも重要なポイントになっています。

 その際、どれだけ中央に対して顔が利くか、あるいは中央で高く評価される事業を展開できるか、地方のトップの手腕が大きく問われることになります。在任期間中にどれだけ地域経済を発展させたか、地域住民の生活水準をどれだけ向上させたかといった、目立った業績を上げることが今後の出世に関わっているだけに、トップも任された裁量を最大限に生かしながら、必死に経済政策に取り組むわけです。

中国市場で日本企業が成功するには

そうした中国を一つの市場として見た場合、今後、日本企業はどんな事業を展開し、どう利用すれば、チャンスが拓けると思いますか。

柴田 中国でのビジネス展開には、一筋縄では行かない「難しさ」があります。たとえば、大手ファッション企業が中国に進出した当初、「日本と同じ商品では高くて売れないだろう」ということで、廉価版を発売したところ、業績が思ったほど伸びなかった。そこで、日本向けと同じ製品を日本とほぼ同じ値段で販売すると、それが当たって現在の大躍進につながったそうです。

 また、食品、フードサービス、流通等の分野では、中国のある地域では大成功しているのに、他の地域では苦戦を強いられるといった話もよく聞きます。中国は国土も広く、所得水準や嗜好も地域によって大きく異なります。当事者の方々も悩みながら事業を展開しているようです。

 私は「中国市場において日本が競争力を持てる分野は何なのか」といったテーマについて、現地で長くビジネスをしている日本人の方々とよく議論をするのですが、中国自体が急速に豊かになってきている中で、結局は、アメニティ(快適さ)に通じるサービス分野や住宅分野、カルチャーにつながるファッションやビューティ、アニメやコミック、ゲームといったソフト分野は、今後ますます中国市場でのニーズが高まると期待しています。

 とりわけヘルスケア関連のサービスというのは、よりハイクオリティなアメニティが求められます。日本同様、高齢化が急速に進む中国での潜在的ニーズは大きく、日本式サービスの水準の高さは、中国人も消費者として素直に認めるところではないかと思います。

 中国市場で成功している日本企業の代表例として、TOTOがあります。TOTOの製品は、中国市場でも圧倒的なブランドを確立しています。中国に駐在しているとよくわかるですが、今や、同社の便器やウォシュレットを設置していることは、「一流ビル」の証のようにもなっています。