財務官僚が分析する「習近平時代の中国経済」

『中国共産党の経済政策』著者・柴田聡氏インタビュー

柴田さんとしては、習近平体制が金融に関してそれほど重要視していない、つまり、米国などから「人民元の自由化」を強く求められているにもかかわらず、実は「後回しでいいんじゃないか」と中国は思っているのではないのか? という印象でしょうか。

柴田 国務院総理(首相)に就任するであろう、党序列第2位の李克強氏(57歳)も、党大会が終わった後、中国政府内の会議で「なんといっても改革が最重要課題だ」と演説していますので、改革の方向性自体に変化はないと思います。

 ただ、改革を実務の面で支えていく新しい布陣が、保守的な調整型タイプばかりだとしたら、海外の人たちが期待するような、迅速な改革が進まない可能性はあります。

 党人事を見る限り、中央委員や中央候補委員に、金融界出身の人間が増えたことは歓迎すべきことですが、これまで王岐山氏が務めてきた金融担当の副総理、また中国経済の対外的な顔となる人民銀行行長や財政部長の後任に、改革派の実務型リーダーが就任するかどうかに注目しています。

「中国経済息切れ論」への疑問

新著には、中国の政治・行政と経済が一体化した「政経一体システム」についての解説が、詳しくまとめられています。この「政経一体システム」については、かねて「一党独裁」「非民主主義的」「過剰な国家介入」といったネガティブな評価ばかりが、国際的になされてきました。にもかかわらず、このグローバル資本主義の世界において、GDPで世界ナンバー2になったところに、中国の「不思議さ」や「危うさ」があるわけですが、「中国経済息切れ論」もささやかれる中、柴田さんが「今後も中国経済は順調に伸び続ける」と予測する理由とは?

柴田 2012年9月の反日デモでもよくわかったように、いざ政治的・外交的な問題が起きると、経済分野をも巻き込む形で多大な影響が及ぶ点が、まさに中国の「政経一体システム」の特徴だといえます。

 そうした「政経一体システム」が「長く続くわけがない」といった議論は、1980~90年代以降、さまざまな切り口からなされてきました。しかしながら、結果として中国は世界第2位の経済大国になったわけで、経済という切り口から見た時に、実は「中国式のしくみが、経済成長に有利に働くメカニズムがあるのではないか」とか「外国人には気づきにくい利点があるのではないか」といった問題意識が、私の中にずっとありました。

 そこで、2008年6月からの4年間、財務省からアタッシェ(専門外交官)として在中国日本国大使館に派遣された私は、ずっと中国経済を自分なりに観察し続けてきました。同大使館の経済部参事官として、中国の政策当局者や研究者と数多くの交流を持ったり、さまざまな意見を聞いたりする貴重な機会に恵まれたのですが、なぜ中国経済が今後も順調に伸び続けるのか、その理由を一言で言えば、中国は全体として見ればまだまだ「途上国だから」です。

 たしかに東京のような生活を送っている大都市の人たちもたくさんいますが、内陸部に入って行けば、50年前、あるいは100年前の日本のような場所もたくさん残っています。そういった発展の遅れた地域に住む貧しい人々が、必要最低限のニーズを満たし、それなりの水準の生活を送れるまでに到達するには、やはり一定の時間を要すると思うわけです。内陸部において徐々に高成長を実現していくというプロセスは今のところ働いていますし、5年、10年というタームで言えば、今後まだ経済成長が続くだけの投資拡大の余地、消費拡大の余地は豊富に残っています。