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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第8回】
息子を大爆発させた妻の一言

奥村 隆 プロフィール

 おそらく、僕が同じような事態に直面しても、やはりパニックに陥っただろう。怒りをあらわにしたかどうかはわからないが、かつて医師から「大人の発達障害」だと診断されたときと同じく、心臓は激しく鼓動し、全身から汗が出て止まらなくなったと思う。

 僕は、息子が陥っていると思われる心理状態を妻に説明し、「今日、塾に行かせるのは絶対に無理だと思う。俺にも同じようなところがあるからわかるんだよ」と告げた。妻も「わかった。しょうがないよね」と納得してくれた。

 そこで息子を呼び、「今日は塾の補習に行かなくていいよ」と告げた。すると、彼はそれまで泣きわめいていたのが嘘のように破顔一笑し、愛くるしい笑顔を見せて、何事もなかったかのように朝食をおいしそうに食べ始めた。いつもの穏やかな休日がようやく始まったのである。

 自分にも同じようなところがあるとはいえ、いったい今の騒ぎは何だったのだろうと僕は思った。妻は僕にこっそり目配せしながら、小さく溜め息をついた。

信号を渡る時刻を分単位で決める

 事前に立てた計画にこだわり、それが変更になると激しいパニックに陥る僕たち親子。同じような傾向を持つASDの人は、医師に言わせると、「時間に強い執着心を持つタイプ」が多いらしい。

 確かに、息子にはそれがきっちりと当てはまる。前述の通り、彼は週に一度、学習塾に通っている。通い始めるとき、僕は安全上の問題を考え、息子と相談して、家から塾までのルートを決めた。「○○通りを進んで三つ目の信号を左に折れ、さらに100m先の横断歩道を渡って・・・」というふうに、歩く道を細かく決めたのだ。

 息子はそれを完璧に守っている。ただし、ルートだけでなく、途中のいくつかのポイントを通過する時刻もいつのまにか決めてしまい、やはり毎回、それを分単位できっちりと守ろうとする。たとえば「○○通りの三つ目の信号を渡るのは午後4時13分」と決めて、必ず4時13分きっかりにそこを渡ろうとするのだ。もし、それが1分でも遅れたら、大変なことになる。

 「もう駄目だ、遅刻しちゃう!」

 とパニックになって叫び始め、僕や妻がどれだけ「大丈夫、遅刻しないよ」「時計を見てごらん、十分に余裕あるよ」などとなだめても聞く耳を持たず、猛スピードで走り出す。そのたびに、僕たち大人はひいひいと息を切らせながら、後を追いかけていく羽目になる。