# ライフ # 「息子と僕のアスペルガー物語」

奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第8回】
息子を大爆発させた妻の一言

奥村 隆 プロフィール

 「何を言ってるんだよ! 『たったの1時間半』ってお母さんは言ったけど、『たったの』じゃない。ものすごく長いんだよ! だいたいお母さんは、塾で何やるのかを知らないのに、何でそんなことが言えるの? おかしいじゃないか。塾に行くのだって大変なんだよ」

 そう言い終わると、自分で自分の言葉に興奮したように、息子はまたワッと号泣し始めた。妻もついに堪忍袋の尾が切れたらしく、

 「泣いたって何も変わらないでしょ。いい? 今日は3時にちゃんと塾に行くのよ!」

 と吐き捨てるように言うと、大きな音を立ててドアを閉め、部屋を出て行ってしまった。その間、僕の存在など彼女の意識からは消えていたらしく、こちらには一瞥もくれなかった。

 そんな妻の姿を息子は呆然と見送ると、今度は僕を睨みつけるようにしてこう言った。

 「お母さんは自分が間違えたのに、僕が悪いみたいに言うんだよ。お母さんは僕のことが嫌いなんだ!」

 僕はさすがに「そんなことを言っちゃいけないよ。お母さんが君のことを嫌いなわけがないだろう」と諭したが、息子は収まらない。顔を真っ赤にして、

 「お母さんは『たったの1時間半』って言ったんだよ。お父さんも聞いてたでしょ? 何なの? 『たったの』って。なんでああいう言い方をするの!」

 息子の怒りは、予定が変わって急に塾に行かされそうになったことだけでなく、妻が「たったの1時間半」と言ったことにも"延焼"していた。「たったの」という言葉を使われたことに執拗にこだわり、それに対する不満を爆発させ続けるのだった。

 「これは大変なことになった・・・」

 僕はぼんやりと思いながら、なすすべもなく、血相を変えて怒りの言葉を吐き続ける息子の姿を見つめていた。

普通の人にはただの予定変更が、息子には深刻な問題

 この連載の第1回などでも述べたように、息子も僕も、想定外の出来事に対応するのが極端に苦手だ。そのことは、医師から「ASDの人にありがちな傾向です」と言われている。

 今回のケースは、息子にとってきわめて深刻な「想定外の出来事」だったに違いない。しかも悪いことに、前夜、勘違いに気づかぬまま、僕と妻は「明日は公園に行って、一日中、思いっきり遊ぼうよ」と息子に提案し、大喜びされていたのである。