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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第7回】
中学時代から僕を苦しめてきた「深刻な症状」

奥村 隆 プロフィール

 僕は一瞬、ぽかんとしたが、すぐに事情を悟った。顧問教師は、口頭できちんと指示した練習メニューを僕が無視して、勝手なやり方で校庭を走ったと思い込んだのだ。

 もちろん、僕にはそんなつもりはなかった。顧問教師が喋っていたとき、たまたま近くでガヤガヤと雑談に興じている生徒たちのグループがいたので、彼の話が頭に入らなかっただけなのだ。指示が理解できていたら、僕は当然、それに従って練習していただろう。

 僕はたどたどしく、「すみません、他の人たちの話が耳に入ると、なぜか先生の話がよく聞き取れなくなってしまうんです」などと言ってみた。考えてみれば、僕はこのとき初めて、「耳の症状」について人に説明したのだった。

 でも、顧問教師はわかってくれず、「ごまかすんじゃねえ!」「人の話をきちんと聞け!」とひたすら怒鳴り続けた。ひょっとしたら殴られるかと思ったが、そこまではされなかった。その場では黙って罵倒されていたが、学校からの帰り道、ショックと悔しさと孤立感で涙が出てきた。僕はその日限りで、陸上部の練習に出るのをやめた。

 

誰一人、わかってくれなかった

 この症状は以後、高校生、大学生、そして社会人になってからも変わらず、僕を悩ませることになった。

 人との口約束を破ったり、すっぽかしたりして、信頼を失ったことは数え切れない。正確に言えば、相手は口頭で約束したと思っているのだが、僕の頭には入っていないため、そもそも約束したという認識がない。結果として、約束をすっぽかしたということになってしまう。

 特に、大勢の人がワイワイガヤガヤと話している場で言われた言葉を、僕はほとんど理解していない。表面上は一応、しっかり聞いているように振る舞っているものの、頭の中には入っていない。だから、そういう場所での「約束」の内容をまったく理解していない。

 でも、「約束」をしたつもりの相手は、僕にそんな症状があるとは夢にも思っていないから、「奥村は、相槌を打ちながら俺の話をしっかり聞いていたのに、すっかり忘れやがって、いい加減な奴だ」と立腹してしまう。それが繰り返されれば、僕という人間をまったく信用できなくなっても不思議ではない。

 しかも僕には、前にも述べたように「フォトグラフィックメモリー」という不思議な能力があり、目で見たものを、脳に焼きつけるように丸暗記することができる。そのことを知っている人は周囲に多いから、なおさら、「あいつ、『記憶できない』なんて嘘をつきやがって」となる。