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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第7回】
中学時代から僕を苦しめてきた「深刻な症状」

奥村 隆 プロフィール

 言ってみれば、同級生たちの声と体育教師の声が、僕の頭の中で混在し、一緒に鳴り響いているような状態だった。その音のカオスの中から、教師の声のみを選んで意味を取ることができなくなったのだ。

みんなが覚えていることを、僕だけ記憶していない

 そんな事態になったのは初めてだった。首を振ったり、指を耳の穴に突っ込んだりしてみたが、何も効果はない。僕は焦った。「あれ? あれ?」と独り言を呟きながら、それでも必死で、チーム分けを発表する教師の声を理解しようと頑張った。しかし、その努力はまったく実を結ばぬまま、チーム分けの発表は終わってしまった。

 このときは、隣に座っていた生徒に「ちょっと聞き逃しちゃたんだけど、俺、どのチームになった?」と尋ねて、事なきを得た。ホッとした僕は「少し体調が悪いのかな」と思っただけで、その後、サッカーに興じている間に、謎の症状のことはすっかり忘れてしまった。

 体育の授業を終えて教室に帰っていくときの僕は、まさかこの症状が日常生活のあらゆる局面で繰り返し起き、自分の人生に深刻な影響を与えることになるとは夢にも思っていなかった。

 再び同じ「耳」の異変が起きたのに気づいたのは、数日後のことだった。場所はやはり学校。国語の授業が始まり、教師が「先週の授業で宿題に出したリポートを提出しなさい」と命じたときだった。

 

 クラスメートたちは皆、がやがやと話しながらリポートを提出していった。ところが、その中で僕は一人、慌てふためいていた。リポートを作成していなかったのだ。なぜなら、リポートの宿題が出ていたこと自体を、完全に忘れていたのである。

 いや、「忘れていた」というのとは違う。正確に言えば、僕には、リポートの宿題を出されていたことの記憶が最初からまったくなかったのだ。

 僕は頭を抱えたが、ないものは仕方がない。やむをえず手を挙げて、「すみません、リポートを忘れました」と申告すると、教師に前に呼ばれてひどく叱られた。ひとしきり面罵されてから自席に戻った僕は、隣の席のHという生徒に「リポートの宿題って、いつ出されたんだっけ?」と小声で聞いてみた。

 Hはすぐ、「ちょうど先週の今日、授業の終わりに先生が言ってたじゃん」と答えた。事実、そうなのだろう。リポートを忘れていたのはクラス中で僕だけだったのだから。

 でも僕には、宿題を出されたという記憶がまったくないのだ。真面目に聞いていた国語の授業だったのに・・・。