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「資産を増やすより減らさない老後」のつくり方【第1回】

平山賢一(東京海上アセットマネジメント投信チーフストラテジスト)

 物価が上昇している時代というのは、それだけ資産運用のハードルも高くなっていることを意味しているのです。

 一方、1990年代以降、20年以上にもわたって私たちは、物価上昇とは縁遠い時代を過ごしています。海外は別ですが、日本の場合、モノやサービスの価格が下落する時期も経験しました。お金の「買うチカラ」は安定していた、もしくは、増えていたことになるのです。

 このようなときには、金利がつかないタンス預金であっても、いろいろなモノやサービスの価格が下がるおかげで、自然と「買うチカラ」が増していきます。金融資産の運用も、それだけ楽な時代であったと言えます。確かに、悩まずともお金を手元に置いておきさえすれば、金融資産の名目額は増えなくても、「買うチカラ」は増えたからです。

老後資金の運用失敗は、取り返しがつかない

 陸上競技のハードル走を例に考えてみると、分かりやすいでしょう。ハードルの高さを、毎年の物価上昇率と考え、資産運用で増やす分は、いつもこの高さを飛び越えるように上回ることが求められます。今年のハードルを飛び越えても、さらに走り続け、また翌年には再びハードルを越えなければいけません。

 物価上昇率が高い時代は、走るよりも飛び越えるだけで大変です。飛び越えられずに、ハードルを踏み倒してしまうこともあるでしょう。それだけ記録タイムも遅くなってしまいます。

 一方で、物価上昇率が低い場合や、もしくは物価が下がってハードルが地面にめり込んでいる場合などは、楽々と飛び越えることができるでしょう。それだけ走ることに集中でき、競争している記録タイムも早くなるはずです。

 ハードルが高ければ高いほど、見かけ上はダイナミックで達成感もあるでしょう。しかし、何回もハードルを飛び越えてゴールするときのタイムは、結果的に、低いハードルで楽々と走っていた時より劣ってしまうはず。見かけは良いのですが、負けは負けです。

 同様に、名目上の資産額がいくら増えたところで、それを超えて物価が上昇していたのでは、ハードルが高い分だけ、最終ゴールの実質的な資産額は減って(劣後して)しまうわけです。大切なことは、目に見える額が増えるか減るかに執着するのではなく、ハードルを毎年超えられるかどうか、つまり「買うチカラ」が増えるかどうかに注目するということです。

 これまでの20年間あまりは、物価が安定し、このハードルが低くなっていた時代でした。それだけに、「何もしない、ほったらかし」のタンス預金でも、何とかしのぐことができたわけです。しかし、これからも同じようにハードルが低いと考えてよいのでしょうか?

 特に、老後資金の運用では注意が必要です。高齢化が進み、多くの人が長生きするようになったわけですから、ハードルが高くなって失敗すると、取り返しがつかないことになるでしょう。それだけに、「買うチカラ」に注目して、着実にハードルを乗り越えるすべを学ぶ必要があります。