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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第6回】
僕が絶対に記憶できないこと

奥村 隆 プロフィール

 彼らが「俺は『ギンギラギンにさりげなく』を歌うぞ!」「『哀愁でいと』、行くぞ!」と歌う前に前置きするたびに、僕はすばやく記憶をたぐって、それらの歌詞を必死で思い出そうとした。しかし、やはり一文字も浮かび上がってこなかった。

歌を聴きながら、必ず歌詞を覚えてみせる

 その週の木曜日。夜9時から「ザ・ベストテン」を見始めた僕は、一つの決意を固めていた。「番組を見ながら、その場で歌の歌詞を覚えてやろう」と考えたのである。

 当時の僕は、自分に、目で見たものを丸ごと覚えられる能力があることをすでに知っていた。だから、その力を使って、集中して番組を見ていけば、絶対に歌詞もきっちり覚えられる---。固くそう信じていた。

 画面では、再結成したばかりのザ・タイガースが新曲『色つきの女でいてくれよ』を歌っていた。この日が「ザ・ベストテン」初登場の曲だ。

 僕は睨み付けるように集中して画面を見つめ、歌詞を聴き取ろうと試みた。こうすれば、歌詞が脳にきっちりとプリントされると思ったのだ。視覚で捉えた文字群が僕の脳に完璧にプリントされるように。

 ところが・・・何ということだろう。メロディーは頭に入ってくるのだが、肝心の歌詞が記憶に残らない。それでも必死で集中した。そして、ザ・タイガースが番組で歌い終えてから、自分でも『色つきの女でいてくれよ』を最初から歌ってみようとした。しかし、まったく言葉が出てこない。かろうじて思い出せた歌詞は、サビの部分だけだった。

 

 画面ではザ・タイガースが引っ込み、来生たかおが出てきて、『夢の途中』を歌い始めた。何週も連続でランクインしている曲だ。「これなら覚えられるはずだ。そもそも何度も聴いているのだから、すでに無意識のうちに記憶しているのではないか」と自分に言い聞かせて、祈るような気持ちで再び画面を睨み、歌詞を脳に焼きつけようとした。

 来生たかおの歌が終わった。僕が『夢の途中』を歌う番だ。今度はきちんと頭に入っているはずだし、そもそもあれだけ流行っている歌なのだから、歌詞がスイスイと出てくるに違いない。

 しかし、そう思って開いた口からは、一つの単語も出てこない。やっぱりダメだった---。テレビの前で、僕は身体も心も凍りついていた。

粉々に打ち砕かれた自信とプライド

 この晩の「ザ・ベストテン」が終わったとき、僕は、小学生にとっては非常に残酷な事実を突きつけられていた。「どんなに好きな歌を聴いても、自分はその歌詞を自然に覚えることができない」という事実だ。