読書ノートは、政局の中心にいる橋下徹氏に関する本、さらに近代的な自由について考えるのに適切な本を取り上げた。今後、日本の社会が閉塞感を強め、自由に対するさまざまな制約が生じるという懸念から、あえて「愚行権」という聞き慣れない権利に焦点をあてた。
◆読売新聞大阪本社社会部『橋下劇場』 中央公論新社 2012年
12月16日の衆議院議員選挙(総選挙)に関して、石原慎太郎前東京都知事が代表、橋下徹・大阪市長が代表代行をつとめる「日本維新の会」の動向から目を離すことができない。橋下氏に関して、多くの本が出ているが、その中では本書が橋下氏の内在的論理をもっともよく捉えている。橋下氏の政界再編のキーワードが「センターピン」であるとの指摘が鋭い。
<この会見(引用者註*7月11日の報道陣のぶらさがり取材)で橋下は、政界再編について、自分の視点を示すキーワードを披露した。「センターピンが何か」である。ボウリングで先頭に置かれるピン。これが倒れないとストライクは取れない。事業を成功させるために最も重要なポイントという意味で経営論に使われている。橋下は、国を動かすインクトがあり、周りのピンを倒すような波及効果をもたらす政策の核だという。「このグループはどういう価値観なのかということをしっかり提示しなければならない。これからの政治を乗り切っていくためには、何が重要なセンターピンになるのか。核のセンターピンがある。僕もセンターピンを持っている。これが一致しないと一緒にできない」
維新にとってのそれを、橋下は「消費税の地方税化」だと述べた。橋下はこの日の会見で、さらにこう言った。「僕と河村さんと大村さん、石原都知事、小沢先生と自民、民主、公明、みんなの党、それぞれどの部分が決定的な価値観なのかを分析すれば、さすがにここがずれてたら無理だろうとか、ここが一致してたら細かなことは何とかなるとか、だいたい見えてくる」
どこと組むのか。組む理由がどんなものなら、国民多数の支持を得られるのか。来るべき次期衆院選での国政進出というゲームでストライクを取るために、橋下は周到に準備を進めている。>(290頁)・・・・・・(略)
◆加藤尚武『環境倫理学のすすめ』 丸善ライブラリー 1991年
近代的な自由権の基本は、他者が愚かなことをするのを認める「愚行権」にある。もっとも愚行権というと、聞こえがよくないので、「幸福追求権」と言い換えることが多い。
日本国憲法では、第13条にこう定められている。
<第十三条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。>
現行憲法では、国民が個人として尊重されるという前提に立って幸福追求権が保障される。要するに、ある個人にとって幸福であることが、別の個人にとっては、愚かなことと見なされることもありうるということだ。
例えば、捨て猫を1匹拾うと、その猫が18年生きるとして、約150万円の出費が必要とされる。それだからといって、「猫を拾うよりも、150万円を福祉施設に寄付しろ」ということは、誰も言えないというのが、愚行権(各人の幸福追求権)の考え方だ。・・・・・・
先日、ラジオでロシアから来た友人をアテンドしている、と仰っており、また近著の書籍を読んで『自壊する帝国』に出てくるサーシャではないかと推測してますが、もし、そうであれば、日本で再会した時のシーンや感想など教えてください。
【佐藤優さんの回答】 今年初め、私の知り合いのNHKの記者がロシアのサンクトペテルブルグでサーシャと偶然会いました。その縁で、サーシャとの関係が復活し、今年に入って2度、サーシャは訪日しました。サーシャは、髪の毛が薄くなり、お腹が少し出て、中年らしい体型になりましたが、頭脳が明晰であることは変わりません。プーチン大統領の陣営に加わって、精力的に(ただし目立たないように)仕事をしています。
所属する企業の事業環境は定性、定量的にみて、共に悪化し、危機的状況にあるのですが、経営層はそれを社外はおろか、社内にも発信しない戦時の大本営発表状態となっております。そこで、良い機会ととらえ、劣勢時期の旧日本軍の組織研究をして改善策などを考えています。読み解く上でのお薦めの基本書を3冊程度教えていただれば幸いです。
【佐藤優さんの回答】 御質問からでは、具体的な状況がよくわかりません。一般論として、旧日 本軍の問題点を指摘した本を3冊あげておきます。