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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第5回】
「お前は天才だ」と呼ばれた日

奥村 隆 プロフィール

 僕は一瞬、質問されている意味がわからなかった。確かに当時、テレビ番組を録画するビデオデッキはあったけれども、まだそんなに普及しておらず、少なくとも僕たち3人の自宅にはなかった。そのため僕たちは、どうしても記録しておきたい歌番組などがあると、放送中の画面にラジカセを近づけて、録音(録画ではない!)するしかなかった。

 しかし、前述したように、「ザ・ベストテン」の冒頭部分に出る4つのランキングは、画面上に文字で表示されるだけで、音声で語られるわけではない。だから、ラジカセによる録音もできない。かといって、自分でランキングを読み上げてその声を録音しようにも、Tが言うように、画面に出ている時間が短すぎて、とてもできない相談だ。

 ならば、僕はどうやって毎週、4つのランキングを記憶していたのか。そう。いつも食い入るようにテレビ画面を見つめているうちに、画面に映ったランキングの映像が、短時間でもくっきりと脳にプリントされていたのである。

 

一度見ただけで、完璧に脳に焼きつけられるもの

 僕は情報を、どのくらいのスピードで脳にプリントできたのか。どのくらいの期間、そのプリントを保持していられたのか。

 それは、プリントする情報が記されたもの(紙や画面など)の大きさや、記憶するときの集中度に左右された。前にも述べたように、普段、テストなどのために暗記するときは、A4版の資料に書かれた内容が最も脳にプリントしやすかった。具体的には、資料を3回声に出して読み込んで、それから1回、目を瞑って暗唱する。それでプリントは完了となる。

 中学生の頃までは、試験前になると、覚えなければならないことをA4版の紙にまとめ、1ページずつではなく、7~8ページずつを通して3回読み返して、一気に脳に焼きつけていた(高校生に入ると、一度にプリントできる量、つまりページ数が落ちた)。

 でも、ギネスブックやスポーツの記録集など、自分が特に興味を持っている情報を脳にプリントするときは別だった。集中力が高まるのか、3回も読み返す必要などなかった。1回読んだ(見た)だけで、完璧にプリントできたのだ。

 しかも、そういう内容は、テストのために暗記するものと違って容易に忘れない。テストのために覚えるのは本来、何も興味がない内容なので、脳にプリントされている期間は数日間に過ぎなかった。

 その意味で、大好きな「ザ・ベストテン」の画面で4つのランキングを見るときの集中力は、ギネスブックやスポーツの記録集を見るときに匹敵するレベルだったと思われる。一度画面を見ただけで、ほぼ正確にランキングを暗記できていたし、その内容は、放送から数週間経っても脳に残っていた。だから、過去のランキングのデータも、瞬時に脳から取り出すことができた。