Photo by Helena Lopes on Unsplash

ビールを飲むとトイレが近くなる「本当の理由」を知ってますか?

医学を笑えば病気も笑う
『モーツァルトとレクター博士の医学講座』
著者:久坂部羊
講談社 / 定価1,470円(税込み)

“目からウロコ”の連続講義。「脳ミソ喰われても痛くないって、ホント?」「健康診断をうけないほうが長生きできる?」「脳死患者は本当に動かないのか?」
医療ミステリーの鬼才が医学的にお答えします。

モーツァルトはすばらしい聴覚を持っていたが、生まれつき左耳の形がおかしかった。ヒダの形がふつうとちがったようで、本人もそれを気にして、肖像画は右から描かせるか、左から描く場合はカツラで耳を隠すようにしていたという。

天才音楽家の耳ができそこないだったというのは、自然の悪戯にしても皮肉が利きすぎている。

 

トマス・ハリスの小説『羊たちの沈黙』に登場する天才精神医学者レクター博士は、超のつく美食家だが、同時に人肉食の趣味もあった。自分の患者だったフルート奏者を殺して、その胸腺と膵臓を料理してオーケストラの理事たちに振る舞ったこともあったようだが、小説『ハンニバル』では、ヒロインのクラリスとともに、仇役の役人の脳をソテーにして食べた。

映画をご覧になった方はご存じだろうが、そのときレクター博士は、役人を生きたまま椅子に縛りつけ、頭蓋骨を外して、露出した脳を特殊なスプーンですくいとって料理していた。脳の表面には知覚神経がないから、あれは麻酔をかけなくても実際にできるなと思うと、グロテスクさもぐんと増す。

19世紀後半、欧州一の美貌と謳われたハプスブルク帝国の皇妃エリザベートは、旅先のジュネーブで、イタリア人テロリストに先の尖ったヤスリで胸を刺されて死亡した。

エリーザベト・フォン・ヴィッテルスバッハ若き日のエリーザベト・フォン・ヴィッテルスバッハ(皇妃エリザベート) Illustration by Universal Images Group

襲撃は一瞬で、エリザベートは最初、何をされたかわからなかったようだ。

近寄った女官に「大丈夫です」と答え、「あの男はたぶん、私の時計を奪おうとしたのではないかしら」と言ったという。それから湖を渡る船に乗ったあと、気分が悪いと言って横になり、事件からおよそ20分後に息を引き取った。

外傷はわずかだったが、ヤスリの先が心臓の血管を傷つけ、その出血が心囊の中に溜まって心臓を圧迫したのだ。これを「心タンポナーデ」という。銃で胸を撃たれたとき、弾が心臓をかすめただけでも致命傷になるのはこのせいである。

そんな物騒な状況でなくても、心臓手術の術後出血とか、動脈瘤の破裂などでも心タンポナーデは起こる。