ソフトバンクのスプリント買収から約1ヵ月。同社は先週の木曜日、ようやく連邦通信委員会(FCC)*1 に買収承認の申請書を提出した。
●「Sprint files for FCC approval for Softbank deal (スプリントネクステル、木曜日に買収の申請書を提出)」 REUTERS, Nov 15, 2012
通信社ロイターの記事によれば、買収完了は2013年中頃を目標としているが、そのためにはスプリントの所有する周波数をソフトバンクに移転することを連邦通信委員会が承認しなければならない。今回の申請書は、この周波数移転を求める書類だ。
また、同申請書では、スプリントのクリアワイヤー買収についても承認を求めている。いよいよ、ソフトバンクのワシントン決戦が始まった。
米携帯業界3位ということもあり、ソフトバンクのスプリント買収では、連邦政府の対応に注目が集まっている。一般的に買収承認審査は米司法省の独占禁止局および連邦通信委員会が行う。買収ケースによっては、消費者保護を行う連邦取引委員会(FTC)が審査を行うこともある。しかし、今回は司法省が前面に出るだけでなく、海外企業による買収と言うことで国家安全保障に関わる政府機関が審査に加わることになる。
早速、FCCに提出された承認申請書をダウンロードして、主要な部分を読んでみた。
同申請所では、次の争点を強調している。
1. ソフトバンクは米国で営業をしておらず、同買収は米携帯業界の競争環境に悪影響をあたえない。
2. 逆に、資本注入によってスプリントの事業強化が進み、AT&Tおよびベライゾンワイヤレスとの競争が促進される。
3. 買収後、両社の加入者は9200万契約となり、スプリントは通信機器、端末、アプリケーションの調達が改善されると予想できる。
4. ソフトバンクはスプリントを通じてクリアワイヤー買収を意図しており、その審査も同時に要請している。
5. ソフトバンク/スプリントは通信事業者に対する外資規制(米国通信法第310項(b)(4)*2にある上限25%規制)に対する特例処置をもとめる。
これらの項目は、今回の買収における主要な争点となる。
米携帯業界第3位のスプリントは、現在厳しい経営課題に直面している。売上でトップを走るベライゾン・ワイヤレスは、いち早くLTEによる次世代モバイル・ブロードバンド整備に着手し、来年末には全米整備を終える。
同社は全米LTE整備が終われば、設備投資負担が減り、他社に対して本格的な営業攻勢を掛けられる余裕が出てくる。新サービスの人気は上々で、既に携帯データトラフィックの約3割はLTE網が処理している。
これを追ってAT&Tやスプリント、TモバイルなどもLTEネットワーク整備に入っている。早く整備を進めなければ、2014年から始まるベライゾンの営業攻勢で劣勢に立たされるからだ。
一方、スプリントの既存ネットワークは音声2系統とデータ2系統を平行運用する非効率な状況にあり、LTEに移るにしても大幅なネットワークの更新が必要だ。LTE用の周波数も、AT&Tやベライゾンに比べると不足している。このまま2014年を待てば、営業攻勢の餌食にされることは間違いない。スプリントのダン・ヘスCEOの憂鬱は、そうした状況が見えているからだ。
「このままでは、事業継続さえもむずかしい」
こうしてネットワーク更新の資金を得るため、スプリントはソフトバンクの買収提案に応じた。スプリントとしては、ソフトバンクの資本注入(約80億ドル)によってネットワークの更新を進めるとともに、クリアワイヤーも買収してLTE周波数も獲得しようとしている。
ソフトバンクは、このチャンスを生かして米国市場へ参入し、将来はボーダフォンのような多国籍携帯事業者を狙っている。この買収を成功させるためにソフトバンクは「米携帯業界の競争環境が阻害されないか」「日本企業が米国大手通信事業者となっても問題ないか」の2点を明白にして、連邦政府から買収の承認を得なければならない。これがワシントン決戦だ。