二宮清純レポート 特別版
ダルは出ない 4番もいない日本代表チームの監督
山本浩二 火中の栗を拾う覚悟

週刊現代 プロフィール

 山本の回想。

 「あの日、市民球場はセンターから風が吹いていた。向かい風の日は逆にライトポール際の打球が伸びるんよ。1球で仕留めようと思ったら、外角のスライダーを狙うしかなかったんや」

 2球目、内角シュート。山本は腰を大げさに引いてみせた。腰を引けば、外のボールはより遠くに見えるはず、とバッテリーは読む。つまり、山本の演技は外にスライダーを投げさせるための罠だったのだ。

 3球目、狙いどおりのスライダーが外角へ。待ってましたとばかりに山本は踏み込み、全体重をバットの先端に乗せた。打球は逆風を切り裂きながらライトポール近くの最前列へ。起死回生の同点弾だった。

 「集中力、決断力、勇気。あの3球はワシの野球人生の集大成やった」

 26年前を懐かしむように山本は語った。このシーズン限りで〝ミスター赤ヘル〟はユニホームを脱いだ。

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 星野仙一しかり、田淵幸一しかり、衣笠祥雄しかり。山本は〝戦友〟を大切にする男である。

 「もしワシが(代表監督に)なったら、投手コーチを引き受けてくれんか」

 東尾の携帯電話に山本から連絡が入ったのは、9月上旬のことだった。

 「浩二さん、肩透かしくらうんじゃないの?」

 絶妙な〝いなし〟を見せた東尾だが、腹の中は違った。

 「そりゃ、うれしかったですよ。僕も現場を離れて時間が経つので〝やってやろう〟と燃えるものがありました。

 浩二さんとは彼が広島の監督時代から〝おい、これについてはどうや?〟とピッチャーに関する質問を受けていた。今回も〝ピッチャーに関しては任せる〟と。もちろん、僕もそのつもりですよ」

 投手総合コーチに就任した東尾が今、一番頭を悩ませているのがクローザー問題である。

 「これは、という抑えがいないでしょう?」

 確かにその通り。今季の日本人の最多セーブ投手はセ・リーグが岩瀬仁紀(中日)で33セーブ、パ・リーグは武田久(北海道日本ハム)で32セーブ。例年に比べると低調だった。

 そこで浮上してきたのが、マー君こと田中将大(東北楽天)のクローザー転向案である。