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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第4回】
教科書を丸ごと脳にプリントする方法

奥村 隆 プロフィール

なぜ歴史の年号なんかを間違える人がいるんだろう?

 中学時代以降、僕のこの能力は少しずつ落ちていった。特に記憶するスピードがだんだん鈍化した。脳へのプリントはできるのだが、そこに至るまでに必要な音読の回数が増え、3~4回では収まらなくなったのだ。

 それでも高校時代には、山川出版社が刊行する日本史の教科書を完璧に暗記したことがある。1ページ当たり10分もかからない程度のスピードで、すべて脳に焼きつけていった。

 フォトグラフィックメモリーの能力がピークだった小学校高学年の頃には、こんなことがあった。

 当時、僕は近所の小さな学習塾に通っていた。ある日、社会の先生から「次の授業までに、テキストを10ページ分覚えてきなさい」と言われた。

 僕は家に帰ると、すぐに課題にとりかかったが、30分で該当箇所を丸ごと暗記してしまい、遊び始めた。すると、その様子を見ていた母が「早すぎるわよ! 遊びたいから適当にやったんでしょう」と怒鳴りつけてきた。むっとした僕は「全部間違いなく覚えたよ」と言い返した。

 母は、僕がいい加減なこと言っていると思ったらしい。「じゃあ、今ここで暗誦してみなさい」と言ってきた。僕はその場ですぐ、10ページすべてを大声で暗誦してみせた。一文字の誤りもなかった。脳に刻み込んだテキストを読んでいけばいいのだから、当然である。

 

 テキストを見ながら聞いていた母は、「ふ~ん」と言ったまま、黙ってしまった。以来、暗記科目の勉強に関しては、一切口を出さなくなった。

 僕はしばらく、この「フォトグラフィックメモリー」を、「胎内の記憶」と同じように、暗記するときに誰もが使う方法だと考えていた。そもそも、この記憶法を会得しているからと言って得をすることは、テストのとき以外にほとんどなかった。しかも、暗記系科目以外のテストではまったく役に立たない。だから暗記系以外の科目で、僕の成績は今一つぱっとしなかった。

 そんなこともあって、小学生時代は、自分の記憶力を誇りに思うこともなかった。近くの席には、いつも成績が良いのに、なぜか歴史のテストで年号をよく間違えるクラスメートがいて、「勉強ができる奴なのに、なぜあんなものでミスをするのかなぁ」と不思議に思っていたくらいである。

 しかし、中学校に入学して間もなく、僕は、この能力をほとんどの人間が持っていないのだと知ることになった。そのきっかけは、ここに書くのが申し訳ないほど「しょうもない出来事」だった。

〈→第5回〉