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奥村隆「息子と僕のアスペルガー物語」【第4回】
教科書を丸ごと脳にプリントする方法

奥村 隆 プロフィール

「最初の記憶」を語ったら、嘘つき呼ばわり

 そう。僕の脳に刻まれている最初の記憶も、やはり母の胎内にいたときにまでさかのぼる。

 そして、それは息子が持つ記憶と寸分違わぬものなのだ。目の前に広がるのは、淡い紅色のボンヤリとした視界。薄く赤に染まった透明な膜に、早朝の太陽の光が当たったような色と言えばいいだろうか。足元からは、遠くに向かって、曲がりくねった細い紐がゆらゆらと揺れながらどこまでも続いている・・・。これが僕の最初の記憶である。

 このような「母の胎内にいたときの記憶」は、誰もが持っているものだとばかり思っていた。しかし、どうもそうではないらしいと僕が知ったのは、小学生3年生のときだった。何かのきっかけで、この話をクラスの担任教師にしたところ、「本を読んで、そういう記憶があると思い込んでいるだけだろう」と笑い飛ばされ、友達に話したら、今度は「嘘つき!」と言われて、囃し立てられたのである。

 母に言わせると、僕は本を読めるようになる前から、この胎内での記憶のことを母に何度も説明していたそうだから、思い込みなどではない。もちろん嘘でもない。でも、小学校で教師に笑われ、クラスメートに嘘だと決めつけられて以来、僕は誰にもこの「最初の記憶」のことを話したことはない。成人して今に至るまで、淡い孤独感と一緒に、宝物のようにひっそりと心の中にしまってきた。

 だから後で息子にも、「お母さんのお腹の中にいたときの記憶は、他の人に話してもきっと信じてくれないし、いいことはないから、言わない方がいいぞ」とだけアドバイスしておいた。

 

 後日、医師に電話でこのことを尋ねてみたところ、「息子さんのようなタイプの子供に、胎内の記憶があることは珍しくありませんよ」と教えてくれた。「息子さんのようなタイプ」というのが、ASD(自閉症スペクトラム障害)やアスペルガーなどの発達障害を持った子供を意味しているのかどうかはわからない。

 でも僕は、この話を聞いたことでようやく、「息子と俺は同じタイプの脳を持つ人間同士だったのか!」と確信が持てるようになった。そうであれば、医師がアドバイスしてくれたように、僕自身がこれまで、いかにしてアスペルガー症候群の特徴に悩まされ、克服してきたのか、その答えを知らなければならないと思った。

 そして、そのために、自分の記憶を徹底的に探ってみようと決心した。そこにこそ、息子が今後、社会を生き抜いていくための重要なヒントが隠されているに違いないと考えたからである。

 いったん心を決めると、医師から「大人の発達障害」を告げられたショックもどんどん薄れてきた。息子と並んで駅へ戻りながら、僕の歩調は次第に力強さを取り戻していった。