競輪選手の被るヘルメットを模した銀の大屋根が目印の小倉競輪場。その近くの商住地域に、指定暴力団「五代目工藤會」(注1)の本部事務所はある。敷地は広く、正門から玄関口まで25mほどもある。通り道の両側に白いワイシャツに黒いスーツ姿の男たち70人ほどがズラッと居並んだ。私たちが通る寸前、男たちは一斉に30度ほど体を傾け、会釈した。
迫力があり、どう対応すべきかまごつくし、照れ臭くもある。男たちはいずれも〝ヤクザそのもの〟といった感じの、不敵なつらだましいをしている。
玄関を入ってエレベーターホール前、両サイドにも男たちが整列して迎える。精気と規律があり、年齢的には30~50代が中心か。他の暴力団より若手が充実している感じがある。
事務所の2階、広々したテーブルを挟んで工藤會の木村博幹事長と向き合った。自ら組を率いる組長だが、同時に工藤會全体のスポークスマンでもある。
インタビューに入る前に、なぜ今、福岡県北九州市にある工藤會を取り上げるのか、その背景や事情を説明しておこう。
北九州市では血なまぐさい事件が続発している。去年11月と今年1月、市内の建設業者二人が何者かに銃撃され、一人が死亡、一人が重傷を負った。4月には福岡県警の元警部が市内で何者かに銃撃されて重傷。8月からは小倉や黒崎など市内繁華街の飲食店経営者や従業員が刃物で切りつけられ、店舗やエレベーターに放火される事件が8件も立て続いた。